793話 インドシナ・思いつき散歩  第42回


 米の話をほんのちょっと


 スーパーマーケットで見た米の話をしたいのだが、米を見るために文字通り寄り道をしたので、この話もちょっと寄り道することにする。
 ハノイ郊外に焼き物で有名なバチャンという街がある。バチャンはつまらなかったが、そのまますぐハノイに戻っては「敗北の1日」になりそうなので、どこかに寄り道をしようと考えた。道草を食う最適な場所は、エコ・パークなる奇妙な地区だ。バチャンのちょっと手前、ハノイからだと乗用車なら15分くらいで着きそうな林の中に、突然高層マンションが建ち並び、アメリカかカナダあたりの新興住宅地を思わせる地区に、大きな一軒家も整然と列になっている。その中心は、カフェテラスやおしゃれなオフィスがあって、ベトナムという風景ではない。ハノイへの通勤に便利な緑の高級住宅地、「ハイソ」などと嫌な言葉がすぐ浮かんでくるような場所だ。
 バチャンに行く途中バスがここに立ち寄ったので、バチャンからハノイに戻るバスも当然寄るだろうと想定し、事実そうなったのでバスを降りた。エコ・パークの中心にイオンがあるのはわかっているから、スーパーマーケット調査をやろうと思ったのである。のちにロッテマートなどにも行くのだが、この時点では、ハノイのスーパー事情がわかっていなかったので、「見かけたら、寄れ!」という方針でイオンに行ったのである。
 店は意外に小さく、日本のコンビニ2軒か3軒分くらいだろうか。商品は多いとは言えず、平日の午後とはいえ、客も多いとは言えない。倉庫に品物が積んであるという感じだった。イオンを出てからわかったのだが、同じ建物の隣りのスペースは、撤退したあとがあり、「閑散」という表現が似合っている場所だった。背後の高層マンションの入居率はわからないが、とても「盛況」とは言い難い。
 さて、米だ。米売り場に行くと、日本語が見えた。ベトナム産日本米の袋に印刷してある日本語だ。それが何種類かあるので、この高級住宅地エコ・パークには日本人駐在員が多く住んでいるということだろう。値段を見ると、ベトナムベトナム米よりは当然高いが、とてつもなく高いというほどではない。売っている米全部を点検すると、もっとも高いのは日本米ではなく、タイから輸入したジャスミン米(カオ・ホン・マリ)だった。日本人や韓国人や台湾人が喜んで買う米ではないから、これは主に金持ちのベトナム人用だろう。
 ジャスミン米は長粒種の米だが、こういう米に慣れていない日本人は、「外米はパラパラ、パサパサ」というイメージを抱きがちだが、その認識はかなりずれている。短粒種の日本の米でも、その品種や炊き方によって、パラパラに近いものからかなり粘りのあるものがあるように、長粒種もその味は一様ではない。短粒種の差よりも、長粒種はもっと違いが激しい。
 ハノイのちょっと高いレストラン、例えば冷房完備、ウエートレスが制服を着ていて多少英語ができる、メニューがあるといった店のご飯は、箸で食べるのに全く問題がないほど粘り気がある。タイでも、高い米は粘り気があるのだ。一方、同じハノイの食堂でのこと、店の入り口近くに調理場があり、チャーハンを作っているのが見えたので、試してみたくて注文した。テーブルに出てきたチャーハンは、パラパラではなく、ゴロゴロだった。飯の粒が完全に離れていないので、大きな粒のままだった。飯をよく見ると、砕米だ。割れた米が大量に混じっている安い米だ。通常は加工用になったり、粥になるのだろうが、安いから低所得者もこういう米を買う。この食堂も、そういう米を使っている。チャーハンだからなんとか食べられるが、白飯のままだと、たぶん「まずい」と感じるだろう。
 ついでにチャーハンの話をしておくと、タイでも、高級レストランのチャーハンはパラパラに仕上がっているが、街の屋台や食堂の屋台は「パラパラ」を意識しない料理法だ。食堂では、「飯粒をていねいにほぐす」という行為にあまり神経を使わない。しかも、油が多くトマトなど汁気の多い野菜も入れるので、湿り気のあるチャーハンが出来上がる。私の少ない体験では、台北の食堂でも、ハノイの食堂でも、似たようなゴソゴソ・ゴロゴロしたチャーハンを食べた。台北の裏通りの食堂で、壁に「港式炒飯」(香港風炒飯)という張り紙を見つけた。どんなものは興味があって注文したら、角切りベーコンが入った炒飯だった。飯も角切りベーコンと同じくらいの玉だった。