863話 オリンピックと出版物 その1


 リオ・オリンピックを前にして、ブラジル関連本が数多く出るのではないかとちょっと期待をしていたのだが、悪い予感が当たり、出版界では「ブラジル・バブル」はなかったと思う。何冊かは出たから無風ではないが、「バブル」では到底ない。この時期に出版された、「無風ではないが、そよ風程度」のブラジル本をいくつか紹介しておこうか。
 『ブラジル雑学事典』(田所清克、春風社
 『新版 現代ブラジル事典』(ブラジル日本商工会議所新評論
 『リオデジャネイロという生き方』(中原仁、双葉社
 『リオデジャネイロ歴史紀行』(内藤陽介、えにし書房)
 雑学事典、読みたいねえ。ブラジル音楽界では有名な評論家中原仁、切手で世界を見る内藤陽介、いずれも前川好みだが、現在はほかに手伸びていて、ブラジル本には手が出ない。
 出版だけでなく、音楽業界でもテレビ番組でも、「ブラジル・バブル」はなかったと思う。ソニーミュージックは、「ブラジルコレクション1000」というブラジル音楽の名盤30枚を安く売り出した。カルトゥーラの「愛するマンゲイラ」など確かに名盤だが、さて、どれだけ売れたか。今までより多少売れたにしても、部外者の私の目や耳にブラジルは入ってこなかった。わずかに、ラジオやテレビで小野リサをよく見かけたという程度だろう。
 かつては、オリンピック開催と出版バブルがあった。それがいつからだったのか考えてみた。1964年の東京大会のあとは、68年のメキシコ大会だった。しかし、あの時代、メキシコの旅行ガイドブックを出したところで、気軽に海外旅行でできる時代ではないから、多少のメキシコ本が出ただけだろう。72年ミュンヘンと76年モントリオール(カナダ)が終わったことは、日本でも海外旅行が身近なものになったが、その後のオリンピックが、かの80年モスクワ大会だったから、モスクワ本、ソビエト本は急増しなかったし、旅行者も少なかったと思う。84年はロサンゼルスで開催されたが、「いまさら」ということなのか、読み物としてのロス本は少なかったとは思うが、旅行ガイドが急増したと思う。
 1980 年に創刊されたのが「BRUTUS」(マガジンハウス)であり、アメリカ西海岸ブームを作りだした。だから、LA買い物ガイドや、UCLAガイドといったものは出ている。しかし、アメリカ本はいつの時代にも出版されているから、ロス・オリンピック便乗本というのではない。アメリカ西海岸ブームにロス・オリンピックが合体して、カリフォルニアが旅行先としても注目された。「モントレー」、「カーメル」といった地名が観光パンフレットで踊っていた。
 だから、完全にオリンピック便乗本といえる初めてのブームは、1988年のソウル・オリンピックからだと思う。