390話 誰にも明日は見えない  1/5

 ここのところ体調があまり良くないので、かかりつけの病院で検査を受けることにした。きょうはトレッドミル検査というものをやった。ルームランナーに乗って、速足から小走りくらいの速度で走り、心臓に負荷をかけて、心電図や血圧を調べるという検査だ。
 体に電極をつけて検査の準備をしている間に担当医師と雑談をしていたら、妙に気になることがあって、聞かずにはいられなくなった。
「つかぬことをたずねますが、この『トレッドミル』っていう英語の意味はなんなんですか?」
 私は自分の体よりも、ことばの意味のほうがさっきからずっと気になっていた。
トレッドミル検査の意味というならわかりますが、言葉の意味となると、申しわけないですが、まったくわかりません。そんなこと、考えたこともないですねえ」
「はい、それなら、あとで調べてみます」
 帰宅して調べた結果を先に書いておこう。日本で「ルームランナー」と呼ばれている機具を、英語で「トレッドミル treadmill」ということはすぐにわかった。普通ならそれで「よし」となるのかもしれないが、私にはミル(製粉機、製材所)という語がついているのがどうにも気になる。ルームランナーと製粉機の関係を知りたい。
 そこで、英語の情報を調べてみたら、ハツカネズミの回し車のような巨大な輪なかにロバを入れて、輪を回して回転運動を得る機具や、牛が木製のキャラピラのようなものの上を走らせて、回転運動を得る機具らしい。そのかたちが、まさにのちのルームランナーそのものだ。http://en.wikipedia.org/wiki/Treadmillの下段の写真参照。動物の足踏み(トレッド)を利用した製粉機(ミル)をトレッドミルと呼び、その仕組みを健康器具に応用したものも同じ名前で呼んだということらしい。
 トレッドミルに関する話を医師としている間に、看護師が私のカルテを持ってきた。2005年に入院した時のページをめくった医師が、「う〜ん。これはひどい。でも、まあ、手早く的確な処理だったねえ」と看護師と話しているのが聞こえた。
「いま、胸の痛みはありませんか」
 医師が私のほうを向いた。
「いえ、まったく」
「この2005年のとき、重症でしたねえ」
「そうですか? 詳しい検査結果は、よく覚えてないんです」
「先生から説明は?」
「あったはずですが、どの程度の症状だったのか、客観的には知らないんです。よく覚えていないんです。あのときも、胸の痛みはまったくありませんでしたから」
「ええ! 痛くなかったんですか。これ、相当にひどいですよ」
 私のカルテを指さしたが、当然、私には文字も図も解読できない。
「これだと、数時間の遅れで、『おしまい』ということになっていても、まったく不思議ではないと言うほどの重症ですよ。この病院の先生方が早めに見つけて、的確に処置したので、助かったんですよ」
 けっして軽い病気だと思っていたわけではないが、それほど重症だったとは思わなかった。もしかしたら、2005年の初夏に、突然、一瞬にして53歳でこの命を失っていたのかもしれない。その可能性がかなり高かったというのだ。7年たって、そういう事実があったことを知った。受けた説明を覚えていないだけかもしれないが・・・。