389話 「月曜日にひなたぼっこ」

 テレビの旅番組でスペインを特集していた。いつものアンダルシア物ではない。どの地域かはわからないが、さほど大きくない連絡船が画面に登場している映像を見て、ちょっと前に見たスペイン映画を思い出した。
 2002年の秋は、しばらくマドリッドで過ごした。昼間はあちこちを散歩し、夜は音楽を聞きに劇場に行くか、映画を見ていた。見たいコンサートが続いていると、午後に映画を見て、軽く食事をしてコンサートの会場に行った。
 何本か見た映画の中で、スペイン語がわからない私が見ても内容がわかり、しかもおもしろかった作品が一本あった。失業した中年の男たちの顔がいい。味のある顔ばかりだ。生活に疲れた妻の顔もいい。だからといって、陰々滅滅の暗い映画ではなく、しかし「元気を出そうぜ!」といった白々しい応援映画でもない。なんとなく、いいんだよなあ、俳優たちの顔が。
 この映画に興味がわいてきたので、帰国したら調べてみようと思い、タイトルをメモしようとしていたのに、ついつい忘れてしまったのを、帰国して気がついた。
 映画のタイトルも監督名も主演俳優もわからなかったが、インターネットで少しは調べがついた。”Los lunes al sol” という映画だ。私のスペイン語力でも、「月」や「日、太陽」という単語があることはわかるが、全体に何を言おうとしているタイトルなのかわからなかった。
 あれから10年近くたって、あの映画をまた調べると、偶然とはいえ、とんでもない宝石と出会っていたのだとわかった。働いていた造船所が閉鎖になり、失業した男たちの鬱積した日々を描いている。詳しいことは、以下のサイトなど、検索すればほかにもいくらでも見つかる。私があいまいな記憶のまま説明するより、きちんとした解説文を読んだ方がいいだろう。
 日本題は「月曜日にひなたぼっこ」だ。失業しているから、月曜日だってひなたぼっこができるという意味か。
 https://es.wikipedia.org/wiki/Los_lunes_al_sol
 この映画は、2003年のゴヤ賞(スペイン版アカデミー賞)で、最優秀作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、新人賞の5部門を受賞している。私が見た2002年の時点では、そんなことはもちろんわからない。スペイン映画事情などまったく知らないから、おもしろそうだという予感がして見ようと決めたのではなく、宿の近所で上映している映画を片っぱしから全部見たなかの1作だったというにすぎない。
 いまインターネットで調べてみて、2003年に東京で公開されたことがあるとわかった。スペイン映画祭ではない。「バスクフィルムフェスティバル」だ。映画の舞台はバスク地方で、使われている言語はスペイン語ではなかったらしいが、私には区別などつかない。
 ネット情報をていねいに見ていくと、2011年秋に大阪で開催されたヨーロッパ映画祭でも上映されたようだが、ビデオやDVDはないといっていい。英語の字幕が付いたDVDは発売されているが、日本では見られないリージョン1だ。
ちょっと見たいと言う人に、予告編を紹介しておこうか。
http://www.youtube.com/watch?v=EW4LmdSlzJw
http://www.imdb.com/title/tt0319769/
 今後、おそらく、DVD化されることはなさそうだ。日本のテレビで放送する可能性はわからない。ゴヤ賞をとったからいい映画だぞと言っているのではない。受賞前に、感嘆したのだ。もう一度、見たい。しかし、どこかでやるかもしれない映画祭に期待するしかないのだろう。