403話 写真は嫌いだが・・・ 後編

 写真もカメラも嫌いなのだが、ネットでコンパクトカメラの広告を見て、最新式のカメラって、どういうものだろうかと、ふと思った。心の隙間の好奇心である。買いたいとか欲しいというのではなく、知りたいという気持ちだけなのだ。最新式デジタルカメラ事情を知ろうと思うと、いくつもの条件をつけないと、あまりに漠然としていて調べようがない。そこで、こんなことを考えてしまったのだ。
 もしも、いまカメラを買うとすれば、どの機種を選ぶのか。
 一眼レフは、もううんざりだ。自分が望む画像に少しでも近づいてくれるという点で、一眼レフはたしかに便利なのだが、背骨が曲がるほど重いカメラバッグを長年持ち歩いてきたので、あんな苦労はもうたくさんだ。それに、私は種々雑多なものに関心を示すライターであって、芸術作品を求める写真家ではない。撮りたいと思ったときに、すぐさま撮影できなければ意味がない。そう考えれば、ミラーがあってもなくても、一眼レフは買わない。超広角レンズを使うと、それに合わせて大型ストロボが必要になる。重く、かさばり、「あっ、あれ、おもしろそうだ」と思って、バッグからカメラを取り出して、レンズをつけて、ストロボをセットしている間に、撮影チャンスを失ってしまうなら、いいカメラを持ち歩く意味がない。どんな高級カメラを持っていても、シャッターを押さないと、撮影できないのだ。私は、世界遺産や絶景と勝負するカレンダーや絵ハガキ用の写真は、撮らないのだ(撮る技術もないが)。
 だから、ストロボ付きコンパクトカメラがいい。カメラを持てば、きっと料理の写真を撮るだろうが、女性誌で喜ばれるような、きれいなだけの写真を撮影する機材はいらない。テーブルに並べた料理の皿全部にきれいに光が当たっている写真に、私は食欲を感じない。だから、光を反射させるアンブレラなんか、まったくいらない。私は、テーブルのシミやハエも写すノンフォクション・カメラマン志望だ。
 次はレンズだ。単焦点レンズを選ぶほど潔くはない。写真の勉強をするなら、単焦点レンズのカメラで勝負するのもいいだろうが、撮影技術がないから、ちょっと楽をしたい。私は広角嗜好なので、望遠にはあまり魅力を感じない。コンパクトカメラの超望遠機能は、子供の運動会やピアノ演奏発表会などのためにあるらしい。ニコンCOOLPIXシリーズのほとんどは、そういう要望に応えたお子様用カメラらしい。私はその手の写真を撮る必要はないので、超望遠はいらない。
 24ミリ〜50ミリ(以下、いずれも35ミリカメラ換算)では物足りないので、24〜80ミリから100ミリ程度のズームレンズ付きが理想的だ。もちろん、レンズは、明るい方がいい。
 その他の、諸々の機能なんざどうでもいい。「あれば便利」という機能は、「なければないで、何とでもなる」機能なのだから、どうせ使わないのだ。レンズが24ミリからのズームでは、あまり安いカメラはない。狭い選択肢から、これはどうだなどと、ネット情報で遊んでいるうちに、ついつい欲がでてしまった。悪いクセだ。絞り優先か、シャッタースピード優先の機能は欲しいと思ってしまったのだ。
 風に揺れる花を、近づいて撮る。夕方、バスから風景を撮る。雨の日に走り去る馬車を,流し撮りで撮影したいなどといった欲があると、「オートでおまかせ」では満足できないのだ。思い切って単焦点レンズにする決断力がなかったように、オートでおまかせするという潔さがない。一眼レフの機能は欲しいが、コンパクトカメラの軽さや小ささも欲しいというわがまま。困ったものだ。
 私のわがままに応えてくれるカメラは見つかった。キヤノンなら、パワーショットG1XかS100あたりがいいのだが、このくらいの上級機種となると、結構高い。S100でさえ、4万円する。パナソニックなら、LUMIX DMC-LX5-Kがなかなかよさそうで、3万円台で買える。コンパクトカメラ事情調査は、単にヒマつぶしで始めたことで、「欲しい」と思って調べているわけではないので、たとえ1万円でも今のところ買う気はない。ただし、「たまたまS100を2台持っていて、もらってくれるとありがたいんだけどなあ」という人がいたら、もらっといてやる(ⓒ田中慎弥)。