511話 さらに、またまた棟方本、もう1冊 

 前回紹介したスーパーマーケットの本がなかなかおもしろいので、この著者はスーパーマーケット以外にどんな本を書いているのか気になってアマゾンで調べたら、あれまあ、こんな本が最近出ていたんですねえ。知らなかった。ここのところ建築関連の本はまったくチェックしていなかったからね。すぐさま、<1-Clickで今すぐ買う>をクリックして購入。さっき到着した。
 その本、『ヨーロッパの住宅広告』(森井ユカ、産業編集センター、2011)は、その書名どおりヨーロッパの住宅広告に、ちょっとアジア編も加えた住宅広告のスクラップブックのような本だ。新聞や雑誌の住宅広告を切り抜くだけなら楽だが、それを解読するとなるとやっかいだ。まず、言葉の問題がある。しかも、不動産広告の解読は、ちょっと語学留学をしていましたというレベルでは歯が立たない。日本人が日本の不動産広告を読んでも、なかなか解読できないのだ。自分がよく知っている場所で普段から不動産広告を読んでいる人なら、ある広告を見て、「うん、これは安いな」という判断がある程度はつくのだが、旅行先で広げた新聞の不動産広告を読んでも、その地域の知識がないから、街の中心の商業地なのかだいぶ郊外なのか、まるでわからない。
 不動産広告をまったく読んだことがない人なら、「敷金、礼金、市街化調整区域、RC、サービスルーム、建ぺい率」といった不動産用語は意味不明だろう。日本人なら誰でも日本の不動産広告がわかるというわけではない。この本の著者は、ヨーロッパ在住の友人たちの助けを借りて、広告の解読に成功している。手間・暇・カネのかかった本である。
 実は、私もかつてタイの建築や居住生活に興味があって、不動産広告の収集と解読をやったことがあるのだが、通常、間取り図というものがない。文字だけの広告では、私のタイ語力ではどうにも歯が立たない。辞書に載っていない語も多い。解読に手こずったことのひとつは、床材の材質や種類に関するものだった。
 さて、この本はパリのアパートから話が始まる。住宅事情は良くない、パリの一般住宅は「狭く、高い」という噂はちょっと耳にしていたが、広告という形で目の前に見せてくれると、それが事実だということがわかる。築100年以上たった50㎡のアパートが、5000万円だ6000万円だという価格を見ると、東京よりも住みにくいか、まあいい勝負かなどとわかってくる。
 そういえば、日本の家はウサギ小屋のようだと西洋人に言われたことがあったなあと、この本を読んでいて思い出した。その歴史やいきさつを調べてみて、意外な事実がわかった。1979年にEC(ヨーロッパ共同体)が出した報告書に、日本の住宅が”cage a lapins”と説明されたことがきっかけなのだが、このフランス語は文字通りの「ウサギ小屋」の意味もあるが、団地のような「都市の大規模集合住宅」をさすようだ。手元の活字版フランス語辞典には「ウサギ小屋」の意味しか載っていないが、ネットの仏仏辞書を見ると、「あまりきれいではない集合住宅」といったニュアンスの解説が載っていた。
 日本の住宅は狭く、西洋人の家は広いという発想は、日米の住宅を比較した場合の話であって、日欧比較ではそれほど大きな違いはない。アメリカの郊外住宅が、やたらにでかいのだ。日本の住宅がヨーロッパの住宅と比べて、格段に狭いということはない。ただし、こういう違いはある。この『ヨーロッパの住宅広告』には、間取り図はほとんど載っていないのだが、中古住宅の広告に居住中の室内写真が何軒も載っている。脱いだ服がベッドに置いたままになっている部屋の写真も、広告写真になっているのだが、日本の住宅と明らかに違うのは、モノが少ないことだ。日本の家にはいかにモノがあふれているかを写真で示したのが、名著『地球家族』(TOTO出版)だった。だから、「日本の住宅はモノがあふれ、その結果狭く見える」ということはある。
以下、この本からちょっとメモ。
フィンランドの家にはサウナがあるという話はよく耳にするが、間取り図で確認すると、「本当だなあ」とよくわかる。アパートの部屋にもサウナがあり、小さな部屋の住人はアパートの共同サウナを利用する。フィンランドはヨーロッパでは例外的に間取り図がついていることが多い。
ストックホルム台北のアパートの1室が、和風内装になっている物件がやはり気になる。なんか、ちょっと変なのだ。見たいでしょ?
■ドイツの不動産広告は、「123.21㎡ €301865」のように、数字に妥協がない物件が少なくない。
■イギリスの不動産広告は、なぜか詳しく調べないと部屋の広さを表示しない商習慣らしい。家賃は月単位か半年単位で支払うのに、広告に表示しているのは週単位の料金が多いらしい。見かけ上安く見せるコソクな広告である。
 この本をたっぷり楽しんだが、棟方本なので、ぐったりとくたびれた。