1124話 ダウンジャケット寒中旅行記 第8話

 アルハンブラ宮殿
 コルドバのメスキータと同じ理由で、グラナダアルハンブラ宮殿には行こうと思っていた。イスラム教徒時代のスペインの残像を見たかったのだ。
 アルハンブラは世界的に有名な観光地で、街で観光客をよく見かけるから、宮殿入口は混雑しているかもしれない。入場券を求めて並ばないでいいように、開館直後に現地到着する計画だった。アルハンブラ宮殿の近くの宿だから、歩いてすぐだと思ったのだが、上り坂が意外にきつく、ふーふー言いながら林の中を歩き、入場口に着いたのは開館の15分後だった。
 係員がメガフォンで叫んでいる。
 「入場券はすでに完売しています!」
 おいおい、どーゆーわけだ。
 係員に事情を聞くと、窓口販売分はすでに売り切れた。後は、ネット販売分と、電話予約だという。
 「電話番号をお知らせしますから、そちらにかけて予約してください」
 「電話を持っていないんですが・・・」
 「・・・・」
 イギリスから来たらしいおばちゃんふたり、私と同年代だろうが、私の脇に立っている。「あたし、ネットができないの」、「あたし、電話をホテルに置いてきちゃった」などと係員に話している。ご同輩。
 しばらく取材して、次のようなことがわかった。
アルハンブラ宮殿は、A、B、Cの3地区に分かれていると理解するとわかりやすいのに、そういう表示はない。C地区は公園部分で、入場無料なのだが、正面入り口からは入れない。ほかの出入り口からならタダで入れる。B地区は、ほとんどの建造物に入れる。入場券は、正面入り口の窓口で買える。7ユーロ。私はこの方法で入場した。入口前で、係員がネット予約云々と言っていたのは、アルハンブラ宮殿の中心となるナスル朝宮殿の入場券のことで、これが7ユーロ。つまり、合計14ユーロでABCのどの地区にも行くことができるというわけだ。日本語にも対応するオーディオ&ビジュアルガイドが6ユーロ。全部を合計すれば、20ユーロ(約2800円)になる。これを日本の旅行社は45ユーロ、6000円ほどで販売していると、たった今、ネットでわかった。ほかにも、いくつもの半日ツアーが企画されている。
 貸し出しされたオーディオ&ビジュアルガイドで、ナスル朝宮殿の内部写真を見ることができるのだが、「まあ、苦労してネット予約することはないか」というものだったが、スマホを持っていない私は、そもそも予約などできないのだ。
 昼過ぎにアルハンブラを出ると、入場口近くに行列ができていた。ちょっと並べばナスル朝宮殿の入場券が買えるらしい。


 日本風に言えば、ここが参道入口である。この門をくぐり、急坂を登っていくと宮殿がある。

 前を歩く老夫婦の夫が、路上で何やら撮影している。見ると、このマンホールだった。電力用のマンホールだが、日本以外にも、この手のフタを撮影したがる人がいるのですね。アルハンブラ宮殿には下のような風景が展開するのだが、印象に残っているのはマンホールだというのが、このコラムの書き手だ。


 宮殿は崖に建ち、下に街が広がる。

 谷を挟んで、宮殿と向き合う。こういう丘の上に宮殿が建ち、その背後に雪山というのが、冬のグラナダである。