1132話 ダウンジャケット寒中旅行記 第16話

 マドリッド、地回りの日々

 アジアの街なら、数年後でもすっかり姿を変えているということがあるが、ヨーロッパの街は100年どころか200年前とほとんど変わらないところもある。ちょっと前に来たばかりのマドリッドだから、おもしろそうなところと言っても、新しくできた場所などなく、やはり同じ場所になる。
 宿はまたしてもソフィア王妃美術センターの近くだから、アト―チャ駅に行く途中などに、何度もその前を歩いた。前回は夕方から無料になるのを利用して入場したのだが、今回は白昼堂々タダで入った。この2年で、この散歩者はパスポートを見せれば、高齢者割引き対象者になっており、全日入場無料になった。だから、散歩の途中にまたピカソやダリやミロを見た。プラド美術館は、タダでも行く気がしない。
 前回行きそびれたショッピングセンター、セントロ・コメルシアル・アーベーセーにまた行った。元新聞社だという建物が美しいので出かけたのだが、前回は内装工事中で中には入れなかった。今回の復讐戦は、またしても惨敗だった。日曜休業だとは思わなかったのだ。バルセロナではデパートもスーパーも日曜休業だったのだが、マドリッドではソル広場のデパート、エル・コルテス・イングレスも日曜日に営業していたので、休業日などまったく気にしなかったのが敗因だ。

 この高級デパートABC(アーベーセー)には、今回も入れなかった。
 
 買いたいものがあったわけではないので、「また今度」ということにして、どこかで昼飯を食べたいと思って思いついたのは、前回行けなかったプリンシペ・ピオだ。現役の駅舎を改装したショピングセンターだ。昼飯を食べにそこまで散歩するというのは、東京で言えば、新宿伊勢丹が休館だったから、銀座シックスまで歩いて行くかといった感じだが、1時間ちょっとで行けると踏んだ。

 プリンシペ・ピオ駅は現役の駅だから・・・

 当然、ホームに列車が入ってくる。


 しかし、駅舎の大部分は商店や事務所や飲食店。
 どこにでもあるマクドナルドやKFCもあるが、長蛇の列ができていたのが、食べ放題の店。すしも、もはや特別な食べ物ではなくなった。

 この食べ放題の店は大混雑だったから、ひとり客である私は遠慮した。だからいくらなのか表示があったが覚えていない。おそらく、15ユーロ(2000円)くらいだったような気がする。

 別の日には、マドリッド歴史博物館に行った。私が好きな博物館だ。地下室のジオラマと解説付きビデオ映像が好きだ。マドリッドのこの場所は昔はこうでしたという説明を、ジオラマを撮影した映像で説明してくれるから、18世紀と今のマドリッドがわかる。午後の1時間ほどをこの博物館で過ごし、ベンチでひと休み。
 博物館を出て、今まで歩いたことのない路地に入る。裏道を探りながら繁華街グランビア方面へ歩いていると、黒革のミニスカートや安っぽいワンピースの、妙齢ではなく高齢の「お姉さま方」が道路に立っているのが目につく。たぶん、私よりも体重があるだろう。「ここに、そういう地区があったんだなあ」と思いつつ歩くと、目の前に見慣れたビルがあった。通信会社Edificio Telefonicaだ。高層ビルの裏手が、そーいうことになっていることがわかった。東京でいえば、銀座松屋裏が売春地域という感じだ。

 こういう高層オフィスビルの裏手に闇がある。

 毎日、こういう散歩をして過ごしていた。勝手知ったる他人の街だから、中心地ならどこだってわかると思い、そのとおりに近道も覚えているのだが、覚えているつもりで歩いて、街に迷うこともあった。それもまた楽しい。マドリッドがもっと好きになる。