1131話 ダウンジャケット寒中旅行記 第15話

 生ハム天国

 前回スペインに来たのは、2016年秋だから、十数か月ぶりということになる。前回は宿近くの地下鉄が工事中で不通だったのだが、無事工事を終えたようでいつでも使える。ソル広場には、相変わらず芸人が出ていて、「おお、まだいたか」という見慣れた静止芸人もいる。あたかも彫像のようにじっとしている芸で、ただ立っているだけのものと、不安定な空中姿勢でじっとしているという芸もある。

 意地が悪いのだが、大道芸人の準備を見ていると、仕組みが見える。これはただの、コスプレといっていいのだろう。今年もピカチュウがいた。公園でポケーッとしているだけでも楽しい。

 こういう姿は、謎はすぐ解けるが、すぐにはわからない芸の秘密もyoutubeを調べると、謎を解いたものが見つかる。
 マドリッドのあちこちを歩き、気がついたことがある。生ハムのスペイン名物化が急速に進んでいるのだ。スペインもイタリアも、以前から生ハムが名物ではあったが、その勢いが急速に進んでいるのだ。マドリッドを歩いていれば、”Museo del Jamon”「ムセオ・デル・ハモン ハム博物館」という看板をよく見かける。実態は博物館ではなく、生ハムを売る店であり、その場で立ち食いもできるし、2階がレストランになっている店舗もある。ソル広場周辺だけで見ても、この十数か月で店舗が倍に増えている。それ以外に生ハムを売る個人商店も目立って増えた。
 「スペインに来たら、生ハムを食べて買う」というのが、スペイン観光の魅力になっているらしい。私は生ハムが大好きだから、これは歓迎すべき傾向だ。日本のスーパーでも生ハムは売っているが、豚肉の刺身のようなピンクの身で水分量が多い。やわらかいだけで風味に欠ける。筋が口に残って食べにくい。スペインで食べていたのは、もっとも安い食事であるサンドイッチに入っている生ハムでさえ、日本のスーパーで売っている生ハムの何倍もうまい。肉は牛肉のような濃い赤で、かなり乾燥している。真っ白い脂身も、甘味を感じて、うまい。うまいが、いいものは本場スペインでもかなり高い。
 読者に便利なように、1ユーロを140円で計算して生ハムの価格を書いておこう。スーパーで売っている安い生ハムで100グラム300円くらいから。生ハム専門店では、安いものでも100グラム1000円以上する。上物では15ユーロ以上するから、2000円を超える。特級の生ハムは、ハムのスライサー(薄切り機)を使わずに包丁で薄くそぎ切りにしたものだそうで、100グラムで3500円くらいするから、松阪牛並みか。まぜ包丁を使うとうまくなるのか分からないが、店主の説明ではそうだった。
 肉と違って、生ハムはステーキのようにがぶりと塊を食らいつくわけではないので、100グラムでもチーズといっしょにつまめば、2〜3人で楽しめる。
 なお、生ハムなど肉類は日本への持ち込み禁止だから、不幸にして空港で見つかれば、没収される。

 私の日常食。生ハムは大好きだが、パンにハムを挟んだだけというのは、何回も食べる場合は芸がない。ソースなどに工夫がほしいと、日本人である私は感じる。

 チーズを生ハムで巻いて食べたいなあなどと想いつつ、ショーケースを眺める。素人の感想だが、生ハムは乾燥度が高い方が価格も高いと思う。ふにゃふにゃよりも、パキパキだ