1921話 『世界の食卓から社会が見える』について考える その2

トウモロコシ

 第1章の2話は、メキシコのタコスの話。トウモロコシの粉を使った薄焼きパンをトルティーヤという。餃子の皮よりもやや大きいトルティーヤに野菜や肉をのせて二つ折りにしたものをタコスという。この項の主張は、メキシコ人の主食となっているトルティーヤの原料となるトウモロコシは、大部分はアメリカから輸入した飼料用だという報告だ。

 私は本筋ではないことに触れる。本筋ではないが、日本ではあまり知られていない話をする。

 「黄色い(トルティーヤ)は、加工の時に水酸化カルシウムを入れすぎたかアメリカ産」だというのだが、なぜ水酸化カルシウムを入れて加工するのかという説明がない。トウモロコシの話をするなら、このことは非常に重要だ。

新大陸から持ち込んだジャガイモやトウモロコシは、食糧不足で苦しんでいたヨーロッパの人たちの命を救ったが、トウモロコシを食べ続けている人たちから、やけどのような症状が出たという報告が多発した。これを、イタリア語でペラグラ(Pellagra pell+agra 荒れた肌)と呼んだ。皮膚だけでなく消化器系の症状(嘔吐、下痢、便秘)などさまざまな症状が報告された。

 ペラグラの原因がわかったのは、それほど古いことではない。1926年にアメリカの医学者が、栄養失調症だと解明した。トウモロコシだけを食べていると、ナイアシンというビタミンが不足する。このあたりのことは資料を読んでもよくわからないので、「ナイアシンが不足すると大変だ」として、話を進める。

 ヨーロッパで大問題になったペラグラだが、トウモロコシを常食してきたアメリカ大陸の人たちに、ペラグラは発症していない。その理由は、生活の知恵として考えた知恵なのだろうが、トウモロコシの粉を練るとき水酸化カルシウムを加える。消石灰を使う例がここにある。トウモロコシに水酸化カルシウムを加えると、皮が柔らかくなるとか匂いが軽減するといった効果もあるが、ナイアシンが活発化するという利点もある。そのシステムを解説した資料を読んだが、やはり私にはその化学を理解できない。だから、トウモロコシに消石灰を混ぜると、ペラグラにはならないとだけ説明しておこう。アメリカ大陸に住んでいる人たちは、はるか昔からこのメカニズムを知っていたから、トウモロコシを主食にしていてもペラグラにはかからなかったというわけだ。

 この項の、メキシコ産の白い食用トウモロコシとアメリカ産の黄色い飼料用トウモロコシの話が出てきて思い出したのは、ケニアの食生活だ。ケニアの主食のひとつは、トウモロコシの粉を練ったウガリだが、うまいのは白いもので、オレンジ色のはアメリカ産という噂で、ボソボソでまずい。飼料用トウモロコシが援助物資としてアフリカに入ってきたのだという噂も聞いた。真偽はわからないが、メキシコの話と符合する。