243話 2008年に読んだ本のなかから


 新聞や雑誌なら、「2008年 書籍ベスト10」といった企画になるのだろうが、昨今の 私は新刊にはあまり食指が動かされず、古本を買うことが多いので、新刊に限定した書評や紹介はもはや無理だ。というわけで、出版年がいつであれ、2008 年に読んだ本のなかから、一部は雑語林で紹介した本も含め、記憶に残る本を、読んだ順に何冊か挙げてみよう。ベスト10形式で選ぶのは、時間もかかるし面 倒だから、読んだ順だ。
 『まがたま模様の落書き』ハンス・ブリンクマン、溝口広美訳、新風舎、2005
すでに、雑語林で紹介済み
 『南方絵筆紀行』明石哲三、文芸社、2002
戦前の東南アジア旅行記で、以前私家版を著者夫人からいただいたことがある。この本は、その私家版にほかの原稿も加えてまとめたものだ。
 『思索紀行 ぼくはこんな旅をしてきた』立花隆、書籍情報社、2004
旧時代のインテリの関心分野がよくわかる。旅で思索をした時代があったという記録でもある。今の若い知識人は、旅に出ても思索しないでしょ。 “Signspotting Absurd&Amusing Signs from Around The World” 1,2, Doug Lansky,lonely planet, 2005, 2007 
わかる人だけにわかる説明をすれば、ロンリー・プラネットが出した“世界版VOW
 『世界の食文化 中南米』山本紀夫編、農文協、2007
網羅的によくまとまっている。このシリーズでは、よくできたほうにはいる。
 『マクドナルドはグローバルか』ジェームズ・ワトソン編、前川啓治ほか訳、新曜社、2003
紹介済み
 『荒野へ』ジョン・クラカワー、佐宗鈴夫訳、集英社文庫
著者の行動に共感はしない。時代遅れのヒッピー。時代遅れのアメリカン・ニューシネマのような読後感。旅行史として、あるいは若いアメリカ人の思想史の資料として読んだ。
 『中国まんぷくスクラップ』浜井幸子、情報センター出版局、2008年
良くも悪くも、いつもの浜井調。
 『其国其俗記』(そのくにそのぞくのき)木下杢太郎(太田正雄名義)、岩波書店、1939 
戦前の東南アジア旅行記
 『近代料理書の世界』江原絢子・東四柳祥子、ドメス出版、2008 
近代の料理書事典。日本における外国料理の歴史もわかる。
 『新香港1000事典』小柳淳編、メイプルプレス、2000
傑作・労作である。いずれきちんと書きたいが、2008年に出た同じ編者の手による『現代の香港を知るKEYWORD888』を読んでからにしようと思っていて、まだ書けないでいる。内容が重複するので、読もうかどうか考えていて、つい・・・。
 『食べる指さし会話帳 台湾』片倉佳史・石野真理、情報センター出版局、2003
 『 同 インドネシア』武部洋子、2008 
いずれ、きちんと書評をしたいと思っているのだが・・・。

 最後に、大いに期待したが、私の興味の方向とは大きく食い違う内容だったので、残念な結 果に終わったのが、『水洗トイレの産業史』(前田裕子名古屋大学出版会、2008)だ。期待を大きく下回る出来だったという本は、もちろんいくらもあ る。昨今の粗製乱造新書がその悪い例だ。『建築史的モンダイ』(藤森照信ちくま新書、2008)は、けっして出来損ない本ではないが、期待したより内容 がはるかに薄かった。建築にまったく興味や知識のない人には向いているから、「ひどい本」というわけではなく、私との相性の問題だ。