533話 全日本讃岐化計画

 
 私は讃岐うどんが好きで、その讃岐うどんが大阪にも進出しているという話を316話に書いた。それは、ちょっと小耳にはさんだ話とわずかな資料を使って書いたものだが、今回はもうちょっと調べて書くことにした。昨今、うどんのチェーン店がはやっているのだが、そのなかで「はなまるうどん」と「丸亀製麺」の2大チェーンを取り上げることにした。日本各地にうどん屋がどれほど増えているかという調査ではなく、讃岐うどんがどの程度広まっているのか調べてみたくなったのだ。「うどんはあまり食べない」地域や、「歯がなくても食べられるふにゃふにゃのうどんが好き」という人が多い地域に、腰が強く汁が透明なさぬきうどんがどれだけ広まっているのか、知りたくなったのである。この2大チェーンに決めた理由は、全国に店舗数が多く、しかも「山田うどん」や「なか卯」などと違って、讃岐うどんの専門店だからだ。つまり、全日本讃岐化計画がどの程度進んでいるのか調べてみたくなったというわけだ。
 はなまるうどん丸亀製麺のホームページから都道府県別の店舗数を書き出してみた。店舗総数は、はなまるが306店舗。丸亀は806店舗。各都道府県で、はなまるうどんの店舗がないのは、富山、大分、佐賀、長崎、宮崎の5県。丸亀製麺は全都道府県に店舗がある。店舗数に極端な差があるのは、北海道と福岡で、北海道では、はなまるが3店舗しかないのに、丸亀は28店舗ある。福岡でも、はなまるが2店舗なのに対して丸亀は24店舗ある。
 さて、各都道府県別に、はなまると丸亀の店舗数を合わせると、店舗数が多いトップ10はこうなる。( )内な合計店舗数。
1、東京(116) 2、大阪(84) 3、兵庫(78) 4、愛知(75) 4、埼玉(75) 6、千葉(60) 7、神奈川(56) 8、静岡(44) 9、北海道(31) 10、岡山(30)
 参考までに、都道府県別人口のトップ10は次のようになる。東京、神奈川、大阪、愛知、埼玉、千葉、兵庫、北海道、福岡、静岡。店舗数は単純に人口数に比例していると言えるのだが、人口では21位の岡山の存在が気にかかる。瀬戸内海を挟んで、香川(讃岐)の対岸にあるという地理的理由からだろうか。鉄道と道路で結ばれて、岡山の讃岐度が高くなっているということだろうか。
 店舗数が少ない方の順位では、7店舗以下は次の11県。佐賀、岩手、秋田、山形、鳥取、宮崎、高知、大分、島根、青森、山梨。こちらも、「人口の少ない県は、讃岐うどん屋チェーンも少ない」という傾向はあるようだ。ただし、うどん県香川の人口は少ないが、両チェーンの17店舗がある。
 こういう数字を見ると、讃岐うどんのチェーン店は、単純に人口が多い都道府県に多いと言える。関西であれ、関東であれ、今までの歴史や文化環境など関係なく、人口が多いと、讃岐うどん屋も多いということになりそうだ。店舗数が、そのまま売上高に比例はしないにしても、ある程度の傾向は読めるような気がする。その傾向とは、日本全土で讃岐化計画がちゃくちゃくと進行中だということだ。私は讃岐うどんが大好きだから、私の行動範囲内に讃岐うどんの店が増えるのは大歓迎なのだが、それが日本全土に広がるというのは、「食の多様化」という点では、釈然としないものがある。つまり、胃袋は讃岐化大歓迎なのだが、脳みそは理性的な判断で疑問を感じているのである。
 福岡や関西には独特のうどん文化があるし、極太ふわふわの伊勢うどんもある。うどんには分類されないが、名古屋名物きしめんもある。そういう麺類が、すべて讃岐うどんに置き換わっていくとすれば、そういう動きをどう判断すればいいのか、私にはよくわからない。「前川健一が選ぶ日本のまずいものトップ10」に入賞確実なのがきしめんだから、この世からきしめんが消えてもいっこうに気にしない。もしも愛知県民も、きしめんよりも讃岐うどんを強く支持した結果、きしめんが消えたとすれば、それはしょうがないというのが、部外者の正しい態度なのかもしれない。