1015話 『ゴーゴー・インド』出版30年記念、あのころの私のインド その6

 インドのビザ事情

 1973年のインドのビザ事情は、料金や書類など詳しい記憶はないので、『世界旅行案内』(日本交通公社出版局、1977)で調べてみる。出入国航空券がある場合、28日以内の滞在ならビザはいらない(資料によっては30日になっているものもある)。ただし、陸路で入国する者や6か月以内にインドでの滞在歴がある者は、ビザを取らないといけない。出国航空券がない場合、トランジットビザで2週間の滞在が可能。いくつかの書類を揃えれば、3か月滞在可能なツーリストビザがとれた。
 東京のインド大使館で観光ビザを取る場合、申請書1枚、写真3枚、出入国航空券が必要。手数料770円、所要3〜8日。これで3か月滞在可能。これは1981年の資料によるものだ。
 もちろん、どこの国でビザを申請するか、大使館・領事館の誰が申請を受けるかなどによって、事情が違う。世界のビザの常識は、全体的に言えば、「ビザがなかなかとれない、とりにくい、面倒、高価」という時代から、しだいに「ビザなし滞在可能」の時代に移っているのだが、インドはこの流れに逆行している。外国人旅行者を締め出す方向に進んでいる。
 そういえば、そのころ、九段のインド大使館で小さなコンサートが開かれたことがあった。インド情報収集を兼ねて、出かけた。インドの楽器といえばシタールが有名だが、そのシタールとよく似た南インドの楽器をビーナという。その演奏会だ。小一時間のコンサートのあと、チャイとスナックが振舞われた。どうも、音楽よりも飲食物の方をよく覚えているなあ。
 昔のインド出入国事情の資料を読んでいて、思い出した。高価なカメラや電気製品などを持ち込む場合は、持ち込み申告書を書く。出国時にその製品がないと、売却したとみなして課税される。「香港やシンガポールで安い電気製品を買って、インドで売れば儲かるのだがなあ、どうやればいいのか」などという会話が安宿で交わされていたとい記憶がある。闇両替をさせないように、外貨持ち込みの検査があった。持ち込んだ外貨と、両替証明書を比べるのだという噂があった。つまり、1000ドル持ち込んで、30日後に出国するときに1500ドル持っていたらもちろん違反で没収だが、900ドル残っていたら、隠していた外貨を闇で両替したのだとみなされて追及を受けるという噂があった。現実にそこまで検査は、普通はしない。ただし、入国時の外貨申請があったことは確かだ。
 現在の日本にも、「外国製品持ち出し届」がある。高額な製品を持ち出す場合、帰国時に「買い物」として課税されないために、日本出国時に届けを出しておくのだ。趣味の悪い高額時計や高額バッグを見せびらかしながら外国旅行をする芸能人たちは、マネージャーかお世話係にこの届け出をやらせているのだろうか。