1108話 イタリアの散歩者 第64話

ポンペイ

[まだ日本は寒いが、旅から戻ってきてしまったので、しかたがない。イタリア旅行記を再開します。まだ何回分か残っているので、おつきあいください。]

 小学生時代から、火山灰で埋もれた街ポンペイの事は知っていた。ナポリから鉄道で約40分、2.80ユーロと、日帰りで行ける名所だ。ナポリに飽きたので、行ってみた。この日帰り旅行でもっとも印象に残ったのは、このベスービオ周遊鉄道だ。住宅広告風にいえば、「上物あり」(つまり、価値なし)というしかない車両で、古いというだけではなく、手入れをしている形跡がないのだ。窓ガラスが汚れきって、外がよく見えない。ドアは左右ずれている。左側のドアが右側ドアより数センチ外に飛び出しているから、ドアの下から外が見える。こういう体験をしていると、日本のテレビ番組のイタリア物は、イタリアを過大評価しているとつくづく思う。
 ポンペイは、写真で見た通りのポンペイで、それだけのこと。ただ、廃墟があるだけといういつものイタリアだ。ローマに行ってから確信に変わるのだが、「こういうのがありました」というだけのこと。「フォロの穀物倉庫」というのは、倉庫跡なのだが、そこが出土品の倉庫になっている。鉄柵超しに、倉庫の出土品をみるだけで、資料館にはなっていない。「ポンペイ再現ジオラマ」や「ポンペイ生活資料館」のようなものがあればわかりやすいのに、基本的に「あるがまま」なのだ。投資をほとんどしない遺跡なのだ。
 唯一の休憩所で、サンドイッチと水を注文したら、「セット販売がある」というので、セットで注文すると、小さなポテトフライがついて、9.50ユーロ。レシートに明細があって、水が3.20。ペットボトル500ccが440円。場所代として、諦めるしかない。こういうことを想定して、水は持っているのだが、好天だったので足りなくなった。
 足りないと言えば、トイレが足りない。私が行ったのは大混雑のシーズンではないのだが、それでも休憩所のトイレは長蛇の列だった。男性用でも長い列ができていたので、女性用は何をか言わんや。こういうことをまるで考えないのが、イタリアだ。もともとトイレの絶対数が足りないのだ。
 いい意味でイタリア的だと思ったのは、あまり人がいない遺跡北端の秘儀荘付近に行った時だ。そこには出入り口があり、トイレは無料。人がいない。そして、出入り口の職員が、「何か買いに行きたかったら、出入り自由だよ。外に店があるよ」と声をかけてくれた。私はサンドイッチを食べたところなので外出はしなかったが、こういう自由さはいい。

 小学生時代からこういう映像を見ているが、実際に見ると「うーむ」と唸るだけだ。ここも、歩きにくく、案内板はなく、説明版は少なくという、イタリア式観光地である。