1234話 プラハ 風がハープを奏でるように 43回

 建物を見に行く その14 高層ビル 前編

 

 ある日、ノビー・スミーホフ(Novy Smichov)に行った。スミーホフという地区にある巨大ショッピングセンターで、novyはもしかして英語のnewと同じかと思い調べると勘は当たった。「新スミーホフ」だ。ここに立ち寄った理由は、チェコの巨大ショッピングセンターはいかなるものかを知りたかったということと、バーツラフ広場の方から1時間ほどかけて歩いてきたから、休憩がてらトイレに寄っていこうと思ったからでもある。

 1階にコスタ・カフェがあった。スペインでよく通ったチェーン店なのだが、マドリッドの王立劇場店は今年(2018)閉店していることがわかりガッカリしていたのだが、うれしいことにここプラハでは健在だった。このコスタ・カフェは紅茶の国イギリスのコーヒーチェーン店で、カップが大きく重いのが特徴だ。コーヒーの量が少ないエスプレッソの国では、コスタ・カフェのコーヒーがもっとも私の好みに合っていた。旧友に再会したようなものなので、敬意を表してプラハのこの店で休憩したかったのだが、幸か不幸か満席だ。旧友が繁盛しているのは「幸」なのだが、だから私が座る場所がないというのが「不幸」なのだ。

 2階に上がってトイレに行く。右に曲がるとトイレなのだが、通路をそのまま進むと外に出ることができる。なんだかおもしろそうな設計なので、トイレの後、出入り口に戻ってみる。出入口のガラス戸の向こうに歩道橋があって、丘に突き当たる。そこは公園だ。出入口の表示を見ると、22時まで開いているという。公園と言っても木とベンチがあるだけの小さな丘で、ショッピングセンターのトイレは夜間でも公園のトイレとしても、タダで自由に使えるということだ。それは、プラハの治安の良さを表している。トイレの話は、いずれ別項で書く。

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 ショッピングセンターの2階から外に出ると、陸橋があり、その先は公園になっている丘に突き当たる。近代的ショッピングセンターの裏が雑木林という風景にちょっと驚いた。

 この丘に登った。プラハの西側から市内が一望できる。中心部には高い近代的な建物はないから、遠くまで見渡せる。

 

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 地平線の左手に小さく見えるのは高さ216メートルのテレビ塔。旧市街にもガラス張りの近代建築がぽつりぽつりあるが、中層なので、丘から眺めて目立つということはない。右手に遠く高層ビルが何本か見える。右端のV字ビルが気にかかる。よし、あそこまで歩いてみるか。

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 カメラを南に向ける。

 南の方に、ガラス張りの近代的高層ビルが見える。建物探検は、こういう現代建築も見ておこうと思った。大体の位置はわかるから、トラムや地下鉄で近くまで行くことはできるが、それではおもしろい散歩にならない。まだ、昼だ。よし、歩くか。それでは、落語「黄金餅」(こがねもち)をまねて・・・。

 4,5,7番などのトラムが通るリディツカ通りを歩き、ブルタバ川のかかるパラツキー橋を渡り、川沿いをちょっと北に上がってダンシングビルを右折。カレル公園を抜けて、地下鉄イーパー・パバロバがある交差点を右折して、一気にレジェロバ通りを南下する。右手には警察博物館がある公園が見えると、すぐさま深い谷となり、長いヌセルスキー橋が対岸と結んでいる。橋が手すりの上まで金網で覆われているのは自殺防止用なのだろうか。この谷は深いので、中層の建物の屋根を見下ろす位置になる。100年か200年ほどたっているらしい建物の屋根には、とてもサンタクロースは入れないような細い煙突が何本も立っている。レンガの四角い煙突というのは大邸宅のもので、集合住宅では、1軒が何本かの煙突を共有しているようだ。30年前のプラハの冬は、おそらく石炭をたく煙で曇っていただろう。

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 深い谷にかかるヌセルスキー橋から、集合住宅を眺める。写真の下の方に見える円筒が煙突。よく見ると、何本かの煙突をまとめた四角い煙突もある。

 ビシュヘラド駅は谷底にあるので、ホームは地上にある。駅の入口のひとつが、ホームだというのはよそ者には驚きだった。緑地にガラス張りのドアが何枚もあり、その向こうがホームだ。地下鉄には日本のような改札口がないから、乗り降りは地上の駅だとトラム(路面電車)と変わらない。

 ビシュヘラド駅近くは中層だが、近代的な建物が建っている。大きな建物には、プラハ国際会議場の看板が見える。いわゆる現代建築はこのあたりから南にできつつあることがわかる。

  あと、まだ5,6キロはあるな。