1107話 イタリアの散歩者 第63話

 落穂ひろい  
     シーフードのコース

 ナポリを散歩していたら、店頭の黒板に「コース料理8ユーロ」と掲げた店があって、「これは安い。試してみるか」と店に入った。テーブルのメニューを見ると、店先の黒板に書いてある料理がない。ウエイターに黒板を示して、「これ」と注文したのだが、カタコトの英語で、「これは、このあたりで働いている人が食べるランチメニューで、土日はやっていないので、休日メニューから選んでください」と言っているのがわかった。そうか、きょうは日曜日か。「なーんだ」と思ったが、「それじゃあ」と店を出るには空腹すぎて、店の人が皆親切そうなので、メニューをまた開いた。
 「本日のコース料理」のなかに「シーフードコース 25ユーロ」というのがあった。3500円か。飲み物などを加えた総額は、4500円くらいになるだろう。私の予算では昼飯にこの料金はあまりに高すぎるが、毎日ピザでは飽きるので、たまには「これが料理」というものも口にしたくなった。どういう内容になるのかまったくわからずに、注文した。
 前菜(アンティパスト)は、ゆでダコにレモン汁とイワシ(多分、カタクチイワシの仲間だろう)のフライ、レモン添え。日本人も大喜びする料理で、酒飲みなら当然、ビールか白ワインという気分だろうが、私は水だ。1970年代ごろまでのフランスなら、「飯を食う時に水を飲むのは、アメリカ人とカエルくらいのものだ」と嘲笑され、イタリアでも同じようなものだっただろうが、今は時代が変わった。健康のために、ワインではなく、水を飲みながら食事をしている人が多い。平日の昼なら、過半数は、水だ。店によっては、8割くらいいる。夜は事情が違うだろうが、酒飲みは確実に減った。


 うん、うまいうまいと食べ始めたのだが・・・

 前菜がまだあった。エビとアサリのフライと白身魚フリット。味に文句はないが、私はある問題に気がついていた。味付けがすべて塩コショーにレモンなのだ。食材が違うが、味は同じだ。「なんだかなあ」と懐かしき阿藤快のセリフを思い出していると、プリモ・ピアット(主菜の前に来る料理)が来た。マカロニとアサリ。これも塩コショー。主菜(セコンド・ピアット)はイカの塩焼き、レモン味。ああ。もっと高い料金の店、食堂ではなくレストランなら、飽きない味にするだろうが、この料金では、イタリアといえどもこの程度か。日本のマスコミでは、「あのすばらしきイタリア料理!」と過大評価をしているが、その辺の安い飯は、このレベルなのだ。


 小エビのフライ


 このパスタ料理だけが、レモン味ではない。後は塩コショー&レモン。


 このイカだって、うまいのだが、飽きた。スパイスや複合調味料かフランス料理のような手製のソースが欲しかった。

 「コーヒーとデザートはいかがですか?」と聞かれたが、もう何も入らない。胃袋はもう満腹だが、舌はとっくに飽きている。アイスクリームのケーキも食べられない。液体も、もう入らない。
 支払いがいくらになっただろうか。請求書を見たら、25ユーロだけ。水はタダ。席料、サービス料なし。だから、ちょっとチップを加えて支払った。

 [お知らせ] 寒い日本に閉じこもっていなければいけない事情・理由はないし、4月までは仕事がない身のパートタイム勤務なので、脱出します。今すぐ出れば、航空運賃がちょっと安いので、すぐ出ることにしました。イタリアの旅物語はまだ連載中で、下書きはすでにできているので残りを全部まとめてアップすることもできないわけではないが、まあ、続きは帰国してからにしましょう。
 もう少し暖かくなったら、モニターでお会いしましょう。ああ、寒い日本は嫌だイヤだ。