「イタリア料理」は新しい 〜ピザとスパゲティの話 その3
イタリアのピザブームは、1980年代
『ねじ曲げられた「イタリア料理」』によれば、イタリア人の誰もがピザとはどういう食べ物かを知り、都市部にすむ多くの人が「食べたことがある」と言えるようになるのは、1970年代末あたりかららしい。ピザもメニューに載せたレストラン、「リストランテ―ピッツェリア」や「トラットリア―ピッツェリア」が登場したのがその時代で、生地が薄いナポリ風ピザと同時に、具を大量にのせたアメリカ風のピザを出す店もある。
「意外に思い、かつ驚かれることだろうと思うが、イタリアに本当に『ピッツァ・ブーム』が訪れたのは、1980年代に入ってからだったのは特筆しておかなければならない。このころになってようやく、イタリア全土に『ピッツァ専門店』というものができたのだ。それはまさに『ブーム』といっていい現象で、わずか数年のうちに、数百、数千という数の『ピッツェリア』がイタリア国内で開店した」と、『ねじ曲げられた「イタリア料理」』で書いてある。この変化は、それ以前からピザ店があった南イタリア人には実感がないようで、だから「ピザは昔からイタリアにある」と書いてしまうのだ。
ピザ用の釜が普及したのも、1980年代だった。「この事実を知れば、薪窯が伝統的ピッツァを作るための必須アイテムなどではないことは、容易に理解していただけると思う」(『ねじ曲げられた・・・』)。まあ、パン焼き窯はあったのだから、窯で焼いたピザの歴史は古いと思う。
私の勘でいうが、この釜で焼いた丸いピザよりも、クッキーのように鉄板に生地をのせてオーブンで焼いたパンピザの方が、消費量でいえばイタリアでも多数派のような気がする。
蛇足ながら、パンピザの説明もしておく。インターネットの日本語記事を読むと、パンピザとは、食パンをピザの生地代わりにしたピザトーストの意味で使っている例が少なからずある。パンを、食パンのパンだと理解したのだろうが、パンピザのパンは、フライパンのパンpanで、浅い鉄鍋、オーブンの鉄皿(oven pan、baking pan)のことだ。鉄皿にのせて焼いたピザが、パンピザだ。
イタリアのピザはふたつのグループに分けて考えると、理解しやすい。
第1グループは、ナポリ式のピザだ。
ナポリピザの伝統を守り後世に伝えることを目的に設立された「真のナポリピッツァ協会」(通称AVPN。本部ナポリ)の日本語版国際規約の第1条にこうある。
「『真のナポリピッツァ』の呼称の使用は、ピッツァ・マリナーラ (トマト、オイル、オレガノ、 ニンニク)およびピッツァ・マルゲリータ (トマト、オイル、モッツァレッラあるいはフィオル・ディ・ラッテ、 オイル、バジリコ)の2種類のピッツァに限られ・・・以下略」。
この2種でなくても、具がほとんどなく、薄く丸いピザは、テーブルクロスがあるようなレストランで食べる。ナイフとフォークを使って、ひとり1枚食べるのが原則であるが、夫婦で半分ずつ分けて、他の料理も食べるという例を目撃している(ただし、その客がイタリア人かどうかは不明)。テーブルには当然、タバスコは置いてない。値段は、最低8ユーロくらいからか。コース料理のプリモ・ピアットをピザにして、肉や魚のセコンド・ピアット(主菜)を食べるというのは、通常の日本人の胃袋では無理だが、高級店でもなければ、ピザだけ食べておしまいというのも可能だし、ピザを半分ずつ食べて、主菜もわけるという食べ方もある。ピザに飲み物や席料を加えると、十数ユーロになる。ピザの飲み物は水、コーラ、ビール、ワインなどで、イタリアの常識ではピザとコーヒーという組み合わせはないらしい。それを知らずにコーヒーを注文して、「no!」と言われて驚いたことがある。
イタリア料理のコースについて、少々解説を加えておいた方がよさそうだ。「イタリアでは、スパゲティは前菜だ」と説明する人がいるので、誤解が生まれた。イタリア料理のコースでは、まずアンティパスト(前菜)から始まり、次にプリモ・ピアット(第1皿)でパスタ、スープ、リゾットなどを注文することが多い。そして、肉や魚を食べるセコンド・ピアット(第2皿)になり、デザートやコーヒーで終わる。街の食堂なら、ピザやパスタだけで済ませても構わない。
ピザの第2グループの話は次回。
このように、大きなピザ1枚をひとりで食べる。イタリアでピザやパスタを食べる動画は、ジュリア・ロバーツの映画「食べて、祈って、恋をして」(2010年)で簡単に見ることができる。アメリカ人が食べているんだけどね。