1106話 イタリアの散歩者 第62話

 落穂ひろい
     三輪車

 三輪自転車と三輪自動車の本を書いた者としては、旅先で三輪車を見ると、素通りできない。機械に弱いので、メカニズムの違いを観察したりはしないが、写真くらいは撮る。
 イタリアで最初に出会ったのは、シチリアパレルモだった。タイのトゥクトゥクに似たスタイルだが、タイ製ではない。


 三輪自動車と馬車が共存している。もちろん、観光客用だ。

 同じパレルモで、三輪自転車も見かけたのだが、ドイツが発祥地のベロタクシー(VELOTAXI)とともに、インドのリキシャタイプもあった。これは、人力車を自転車で引っ張る構造になっている。三輪自転車を観光客用の乗り物になっている例は、もはや珍しくない。ベロタクシータイプは電動アシスト車もあるようだが、リキシャ型は完全人力だから、坂の多い街には適合しない。坂ばかりのリスボンでは、当然三輪自動車が似合っている。


 パレルモベロタクシー

 バーリで見かけたのは、イタリア車で、これも観光用。バーリは坂が多いので、歩くのが嫌な観光客(あるいは足が不自由な人)には便利だ。


 
 ベネチアで見かけた張り紙。「インドのリキシャ」というのはわかるが、これをどうしたいのかが、わからない。ベネチアは、自動車はもちろん、小さな子供の自転車以外自転車も禁止されている街だから、リキシャの販売やレンタルの広告を出しても利用できないんだから、この張り紙の意味がわからない。

 ミラノでもベロタクシーを見た。『東南アジアの三輪車』(旅行人、1999)の資料を集めているときに、リキシャがひしめいているバングラデシュNGO活動をしている日本人が、「リキシャはエコな乗り物ですよ」と言ったのに驚いた。人力車もリキシャも、人権擁護を叫ぶ西洋人たちが糾弾してきた歴史を知っているので、エコという考え方に驚いた。ドイツで自転車タクシーVELOTAXIの営業が始まったのは1997年だから、彼はそういう事実を知っていたのだろうか。


 ミラノのドゥオーモ前でも客待ち。
 実は、1980年のサンフランシスコで、タイの三輪自転車が観光用に走っているのを見ている。観光客に「エキゾチック」を演出する乗り物として、かなり昔から使われてきたこともわかった。
 三輪車は、観光用として各地で生き残っている。実用車として初登場しているのは、フィリピンや南米やアフリカだ。街によっては、電動アシスト三輪自転車や電動三輪自動車など、新システムの車両も登場している。