1361話 音楽映画の話を、ちょっとしようか 第5回

 シカゴからまたニューヨークへ

 

 1980年夏、ニューヨークでしばらく滞在した後、グレイハウンドバスでシカゴに行った。1300キロの旅だ。今は制限速度が緩和されたため、所要時間は多少短くなったが、まる1日、ほぼ24時間の楽しいバス旅行だ。アメリカバスの旅は、今でもまたやってみたいと思うほど楽しかった。

 昼前にシカゴに着いた。グレイハウンドのバスターミナルを出ると、目の前に「ブルース・ブラザース」のラストシーンに登場するシカゴ市庁舎があった。市庁舎ということにして撮影したこの建物の正体を知りたくて近づくと、本物の市庁舎だとわかった。シカゴ市が全面協力したのだろう。シカゴに来るまで、シカゴがどういう街なのか知らなかったので、「ブルース・ブラザース」がシカゴを舞台にしていたのだと、シカゴに着いて初めて知った。私は観光旅行でシカゴに来たのではなく、何人かにインタビューをするために来たので、シカゴの予備知識などなかった。使えるガイドブックもなかった。『地球の歩き方』のアメリカ編はすでに前年に発売されていたが、書店で現物を見て、「これじゃ、使えないな」と判断したのだろう。どんなガイドブックも持っていなかった。バスの車内で楽しむように、大きなアメリカ全土地図を持っていただけだ。

 シカゴをよく歩いたから、中心部は今でもよく覚えている。大阪といえば、グリコやカニの道頓堀がお約束で登場するように、シカゴと言えば高架鉄道“Chicago L”だ。元はelevatedから”el”と省略したようだが、いまは”L”1字で表している。高架鉄道とガード下が出てくれば、「おお、シカゴ!」ということが多い。もちろん、「ブルース・ブラザース」にも登場する。

 シカゴ市内に跳ね上げ橋がいくつかあり、これもシカゴ名物だから映画によく登場する。

 シカゴのお約束と言えばもうひとつ、トウモロコシそっくりのビル、川沿いのマリナシティーが映画によく登場するのだが、我が「ブルース・ブラザース」には、そんな金持ち臭いビルは出てこなかったように思うが、そのあたりの記憶ははっきりしない。

 シカゴは超高層ビルで有名だが、それでも味のある街だから結構気に入った。しばらく遊んでいたいと思ったが、取材費の資金源である雑誌編集部に取材経過の報告の電話をしたら、「ちょっとニューヨークで取材してほしいことがあって、悪いけど・・」ということで、バスに乗ってまたニューヨークに戻ることになった。「悪いこと」など、何もない。またニューヨークに行けるのがうれしかった。ニューヨークに行くバスの旅は、サイモンとガーファンクルの「アメリカ」だ。歌詞を日本語訳詞つきで紹介する。歌詞にタバコが出てくるが、昔は車内でタバコが吸えた。運転手はときどき、「タバコはいいけど、ほかの葉っぱは吸わないでよ」とアナウンスしていたのを思い出した。

https://www.youtube.com/watch?v=oFKtJAAjMug