1553話 本の話 第37回

 

『ウンコはどこから来て、どこへ行くのか』(湯澤規子、ちくま新書、2020)をめぐって その4

 

 『ウンコはどこから来て・・・・』は期待したほどおもしろくなかったので、多少は関連する本を探した。料理図鑑の話(1537話)で、こういう本の書き手は女が多いと書いた。それはトイレの本でも同様で、日本語の本はもちろん、手元にある英語の本でも、書き手はほとんど女だ。

 書名は知っていたが読んだことがなかった『トイレのない旅』(星野知子講談社文庫、1997)を読んだが、傍線を引き付箋を貼ったページはなかった。『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中島恵、中公新書ラクレ、2015)は、トイレに関する記述は少なく、書名に「トイレ」の語があるのは、客寄せのためのキャッチワードだろう。この新書にトイレ情報はほとんどないが、中国人の海外旅行のシステムがわかる資料になっている。中国人が外国旅行をしたいと思ったらどうするかという話だ。海外旅行史の研究者としては、興味深い記述に出会った。以下、箇条書きにする。記述内容は当然、この新書出版当時のもので、その後旅行事情は変わっているかもしれない。

●中国政府が自国民の海外団体旅行(香港・マカオを除く)を許可したのは1997年、個人旅行が許可されたのは2009年からだった。ちなみに、韓国は1989年。

武漢に住む主婦が日本への団体旅行(4泊5日 5900元、9万6000円)に参加しようと思った。2013年のことだ。パスポート代金は200元(3200円)、2週間後に受け取れた。パスポート申請に苦労したという話は書いてないが、農村戸籍の場合は簡単ではないような気がするが、詳細を知らない。

●ツアー申し込み書類。日本のビザ申請書。夫の在職証明書。銀行口座の残高が5万元以上(80万円)の銀行口座があるという証明(通帳のコピーなど)。残高によっては、口座が凍結される。国外逃亡を防ぐためだ。日本でも、1970年代には形式的ではあったが、「銀行の残高証明書」が必要だった。韓国でも、同様だった。

●中国人が個人旅行をする場合。ドイツなどヨーロッパに行く場合、ビザ取得に必要な書類は、不動産取得証明書、預金残高(5万元以上)を証明する通帳のコピーなど、在職証明書、海外運転免許証(運転する場合)、航空券の実物、日程表、宿泊ホテルの予約表など。持ち家がない場合は、個人旅行は難しいようだ。

 最後は、いままでまったくマークしていなかった本だ。

 『山でウンコをする方法』(キャサリン・メイヤー、近藤純夫訳+エッセイ、日本テレビ放送網、1995)も、著者は女性だ。内容は、タイトルどおり野外でどう用を足すのかを語るエッセイだ。どの章もおもしろいが、第6章「ブーツにおしっこをかけない方法(女性の方のみお読みください)」など、なかなかいい。あるヨット用品店に来た初老の夫婦。妻が漏斗を手にして、長いホースをつけてほしいと店員に言う。そして、夫に言う。

「あなた、これでわたしの方があなたよりながくなるわ!」

 巻末に訳者のエッセイがある。訳者がパリの大学生だった1970年代、「その頃、大学のトイレにはドアがなかった」とある。アメリカの大学寮や軍隊では、ドアがないトイレの話を読んだが、パリの大学でもそうだったか。

 企画に困っている編集者にお教えします。この本を文庫にいかがですか。売れます(と、前川が推薦すると逆効果かなあ)。

 以上で、「ウンコ」およびトイレ関連の話は終わる。