1662話 「旅行人編集長のーと」に触発されて、若者の旅行史を少し その10

 1990年の格安航空券事情

 

 前回、1975年の格安航空券情報を少し書いた。引き続き1980年代の資料がないか探したが、ない。多分、大捜索隊を派遣して、1980年代の「オデッセイ」のバックナンバーを引っ張り出せばわかるのだろうが、手元にあるのは『異国憧憬』執筆のために書斎に持ってきた1970年代の号数冊と1990年発行の号だ。1986年に34号が出ていて、手元の1990年発行の号は「36号」だ。発行当初は「年4回発行」をうたっていたが、4回発売した年ははたしてあっただろうか。実質上「不定期刊」で、確かな記憶ではないが、カルカッタを特集したこの36号が最終号になったのかもしれない。

 参考のために、この号に広告を出している旅行社の名を書いておこう。1990年はそれほど昔とは思えないが、30年以上前だ。あのころ安い航空券を探していた人には懐かしい社名が登場するかもしれない。( )内は紙面にあるコピー。

道祖神(アフリカ旅行のスペシャリスト)

西遊旅行(シルクロード・秘境旅行・トレッキング・海外登山のパイオニア

マップインターナショナル(旅の魔法使い)

HIS秀インター

アクロス・トラベラーズ・ビューロー(英語・中国語・ウルドゥー語タガログ語でも対応)

ロータスツアー(法華旅行開発。インド・ネパール・スリランカ旅行)

エアーリンク(会員制旅行社)

アイランドツアーセンター(インド・ネパール精神世界の旅)

地平線トラベルセンター(インド・ネパールその他)

マイチケット(第三世界への研修旅行・交流旅行・体験旅行)

NTS TRAVEL BOX

ラテンアメリカ トラベル サービス(中南米専門旅行社)

アクティブツアー(旅・立・ち・と・の・接・点)

オリンピアツアー(ノーマル航空券5%引き)

ユニコエアーサービス(We present you super trip.)

UIC(アジア・アメリカ・ヨーロッパその他)

フレックス インターナショナル(海外旅行安く行く)

世界ツーリスト(インド・ネパールをはじめ、アフリカ・ボルネオ・北極圏など・・・)

 当時の格安航空券はいくらくらいだったかという話は難しい。出発時期や利用航空会社によって大きく違うからだが、ここではHISの1990年4月出発便、東京発の往復料金のもっとも安いものを書き出しておく。渡航先の順序は、この広告のままで、その意図は不明。前回紹介した1975年の料金と比べて、格段に安くなっていることがわかる。

カサブランカ  13万5000円

カイロ     13万5000

イスタンブール 13万5000

ホンコン     5万8000

シンガポール   7万6000

バンコク     6万8000

インド     11万4000

ロサンゼルス   8万5000

ニューヨーク  10万9000

ロンドン    13万5000

シドニー    12万8000

ハワイ      8万9000

 エアリンク・トラベルの広告に、「バンコク 7万6000円 エジプト航空」とある。バンコクで生活していたころは、どの旅行社で買っても、東京・バンコク往復が7万円前後だったことを思い出した。

 インドに行きたいが不安という人向けに、ロータスツアーが「インドフリープラン」というツアーがある。「5~45日間」というのがいい。往復の航空券に1泊目の宿がつく。滞在日数が参加者それぞれで違うから、帰国の手続きは各自自分でということだろう。料金は時期により14万3000円と15万3000円。ひとり参加は5000円増額。添乗員はつかないが、インド人が出迎え、ホテルに案内しチェックイン。翌日の午前中に、インド旅行のオリエンテーションがある。

 ちなみに、私は2014年以降しばしばヨーロッパに行っているが、カタール航空エミレーツ航空と言った安くてサービスは悪くない航空会社を利用しているので、たいてい往復8万円程度だ。スペインからモロッコLCCで飛んでも数千円だから、合計してもネパールやスリランカに行くよりもかなり安かった。東京・バンコクのタイ航空の料金に3万円プラスすると、東京・マドリッド往復の料金になったこともあった。南回り便は利用者が少ないので安いのだ。そのタイ航空は、2020年に経営破綻した。   

 付記 沢木耕太郎の『深夜特急』の第一便・第2便の発売は1986年で、そのあとじわじわと「旅する若者」が増え、「バックパッカー」という用語も目にするようになる時代背景が、上に示した料金でよくわかる。

 上に書いた3行の文章のために、アマゾンで『深夜特急』の出版年を調べていて気がついたことがある。あの頃の旅する若者も老眼鏡が必要な年齢になり、『深夜特急』に<文字拡大増補新版>が2020年6月に出ていることを知った。ワイド版岩波文庫みたいじゃないか。JTBの老人用旅行雑誌「ノジュール」は、「温泉大好き、しみじみ、しっとり」旅という旅雑誌だが、バックパッカー老人向けの雑誌「旅行老人」が出る気配は、今のところない。