1998話 最近読んだ本の話から その9

 神保町を歩いていて、「そうだ、鉄道のトイレの本が出たばかりだったな」と思い出したが、正確な書名を思い出せない。新聞の書籍広告でちょっと見ただけだから、記憶が乏しい。三省堂があれば、コンピューター検索ができるのだが、目下新築工事中(まだ、取り壊し工事も終わっていない)だから・・・と考えていて、「そうだ書泉グランデに行こう」と思った。あの書店の6階は、鉄道ファンには有名な鉄道書専門フロア―で、私は鉄道ファンではないが、旅行書の資料を探しに何度も足を踏み入れたことがある。

 6階の棚を仔細にしらべて、鉄道のトイレの本を探したが、見つからない。店員に聞いてみることにした。

 「あのう、鉄道のトイレの本が出たばかりだと思うのですが・・・」

 「はい、ありますよ」とある棚に私を案内したが、「あれ、ないですね。売り切れたようです」

 「そうですか。あの本、書名はなんでしたっけ?」

 「え~と、『列車トイレの世界』ですね」

 「版元は?」

 「丸善ですね」

 それなら、問題ない。お茶の水駅前に丸善があるから、簡単に手に入るだろう。

丸善には検索機がある。書名を入れれば、店内にあれば、印字した紙が出てきて、その棚の位置を教えてくれる。調べれば、すぐにその棚が見つかったが、そこに目的の本はない。店員に、印刷された紙片を見せて、「ここにあるという指示なんですが、見つからないんですが・・・」と言った。

 店員は当該の棚に行き、本当にその本がないかどうか確認し、「ああ、あっちですね」と言って店頭に私を案内した。テーブルの上に、『列車トイレの世界』が積んである。自社出版物の販売強化商品だ。

 「今、お買い上げの方に、特製トイレットペーパー進呈」のポップ。もちろん、貰った。

 本の話ではなく、本を買うまでの話をながながと書いてきたのは、つまり、苦労して買ったわりにはあまりおもしろくなかったからだ。

 類書が少ないから買ったのだが、帯に短したすきに長し、鉄道とトイレ体験記の部分は、『地球の歩き方』を手に、ただ「乗った」というだけに等しい。鉄道旅行記を読みたい人には物足りない。著者はエンジニアだから、列車トイレのメカニズムを解説しているのだが、そうなれば機械の素人にはややこしすぎて、たすきに長し。けっして出来の悪い本ではないが、150ページでは内容が薄くなる。

 鉄道のトイレは、昔は床に穴が開いていて、線路や枕木が飛んで行っているのが見えた時代の記憶がある。排泄物は垂れ流しシステムだった時代を覚えている。1986年でも、国鉄の列車トイレの25パーセントは垂れ流しスタイルだったそうだ。沿線住民から苦情が多かったというニュースも覚えている。

 この本で紹介している外国の列車トイレ調査は20年以上前のようで、最新事情ではないだろうが、オランダなどヨーロッパの列車トイレはまだ垂れ流しスタイルが残っているようだ。

 最近のトイレ本を探していたら、『世界の家 世界のくらしSDGsにつながる国際理解〜 ②トイレ、お風呂』(ERIKO、汐文社、2021)が見つかり、このシリーズに「①キッチン、ダイニング」や『③玄関、リビング、庭ほか』というのもあるのだが、子供向きの内容で、わずか32ページの本で2750円だから、もちろん買わない。読みでのある本よ、出て来い!