鉄道
わずかな体験だが、鉄道に関して、エストニアとラトビアには違いがあった。ラトビアのリーガからエストニアのタルトゥに鉄道で行った時だ。直通国際列車というのはなく、国境の街Valkaバルカ(エストニアでは、Valgaバルガ。正確には国境の街ではなく、街の中に国境がある)の駅で乗り換えになる。同じ駅の同じプラットフォームを、右から左に移るだけの乗り換えだ。
うな、かなりくたびれた列車だったが、定刻に発車し、定刻に到着した。エストニアのバルガ駅(同じフォームだが)で乗客を待っていたのは、近鉄の特急のような新しい列車だった。
リーガ駅の始発列車だが、乗客は全部でこれだけ。首都の駅としては、わびしい。
Valgaと書いてあるから、エストニアの駅という意味だろうが、ラトビアの列車の終着駅だ。
「広い」というのが最初の印象だった。ラトビアの鉄道がそのまま国際列車にならないのは、軌間(線路の幅)の問題かと思った。エストニアの軌間が広いので乗り換えが必要なのかと思っていたが、調べてみるとバルト三国では軌間は同じらしい。
日本では、在来線は1067mmだが、新幹線は1435mmだ。新幹線の軌間が国際的な標準軌で、ヨーロッパ諸国でも同じ軌間だ。バルト三国は、ソビエトの基準を採用しているので1520mmとかなり広い。エストニアの列車に乗って「広い」と感じたのはそのせいだが、ディーゼルの単線運行だ。車内を眺めると、”Schindler”のプレートが見えた。エレベーターで有名なスイスの会社シンドラーだ。
エストニアの鉄道。車内は広く、新しい。が、客はほとんどいない。
10分遅れで発車したが、乗り心地は快適。車椅子利用者も使える設備があり、ラトビアの鉄道とは大きく違う。しかし、客は1車両に数人という程度で、赤字の垂れ流しだろうと思われるのだが、新築(改装)工事をやっている駅もあって、「うらぶれた鉄道」という感じはしない。ちなみに、ラトビアのリーガから国境のバルカまで3時間20分ほどで、5.60ユーロ。エストニアのバルガからタルトゥまで1時間10分ほどで4.90ユーロ。エストニアの鉄道が高いことがわかる。鉄道の速度は両国ともあまり変わらず、平均時速40~50キロくらいだろうと、根拠もなく推測した。日本の鉄道に慣れている身には、かなり遅いと感じる。1時間乗って600円だと、特に「安い」とは感じない。
タルトゥが近づいて、事件が起きた。ドアは客が開閉ボタンを押すシステムになっているのだが、駅に着いてもドアが開かない。客のおばちゃんが懸命にボタンを押しているがドアが開かず、大声で車掌を呼んだ時には、もう列車は駅を離れている。素人の想像だが、ドアロックの解除を忘れたのだろう。さて、どうする。1日数本の鉄道だ。次の駅で何時間待つことになるのかと、他人事ながら(たにんごとではなく、ひとごと、です。念のため)心配していると、次の駅で下り列車が待っていた。単線だから、ここでタブレットの交換ということになるのだが、なんと都合のいいことか。
折に触れ、各地で鉄道旅行を思いついたが、うまくいかなかった。バルト三国もポーランドも、鉄道はロシアと結ぶ東西の移動しか考えていない。それがソビエトの意思だからだ。リーガからエストニアの首都タリンはタルトゥ経由でしか行けない。バルト三国の首都を鉄道で結ぶという路線はない。ポーランドのワルシャワとリトアニアのビリニュスを結ぶ路線もない。バルト海の不凍港とソビエトを結ぶのが、この地域の鉄道なのだとわかる。
私は鉄道マニアではまったくないが、ある国の鉄道を調べると、その国の歴史や経済や外交関係などがよくわかるということを東南アジア研究で知ったので、どこの国で鉄道路線図をじっくり眺めるのである。
タルトゥ駅舎。街の本屋で立ち読みしたら、100年前の駅も同じ建物だった。塗り直しただけ。
最終列車が出た後は、遊び場になる。この明るさだが、20時過ぎだ。