65話 世界マイナー国家選手権



  世界一小さい(面積が狭い)国とか、人口密度の多い国といったことなら世界の国々の順位は簡単にわかる。ところが、日本人にとってもっともマイナーな国、 つまり、認知度のもっとも低い国はどこかということになると、簡単には答えがでない。認知度が低いということは、心理的に遠い国だということだ。
 逆に、もっとも知名度の高い国はアメリカだろうと予想はつくが、地図上での認識となると、別な国が第一位になるようだ。テレビや雑誌の企画で「世界地図 を描いてください」と、ごく普通の人々に依頼すると、多くの人がほぼ正確に描けるのがイタリアだという報告を読んだことがある。「イタリアは長靴の国」と いう認識がはっきりとあるのだ。それは、国の形を知っているというだけでなく、だいたいの場所も知っているということだ。
 この、「だいたいの場所を知っている」のを認識度調査の基準にすると、旧西ヨーロッパとメキシコ、アメリカ、カナダ、そしてオーストラリア、アジアでは 韓国、北朝鮮、中国、台湾くらいがわかる人は、「よく知っている」といわれる部類に入る人ではないだろうか。だから、「地図上で、その国に印をつけなさ い」という設問にすると、今挙げた国以外はすべて、「マイナーな国」に入るような気がする。新宿の街を歩いている人に、国境だけが描いてある白地図を見せ 「イランとイラクに印をつけてください」という調査をすれば、正解率は10%もないだろうと思う。まあ、やってみなければわからないが。
 そんなことを考えていたある日、インターネットで検索すればだいたいの傾向はわかるんじゃないかと思った。カタカナで国名を打ち込めば、日本人が持って いる情報量の概要がつかめるかもしれない。もちろん、「タイ」と打てば、「ケータイ」や「ネクタイ」「タイ記録」、そして魚のタイも同時に検索されるが、 タイ王国がマイナー国選手権決勝に出場することはないだろうから、気にすることはない。国名がほかの語にもひっかかりそうなのは他にマリとチリが上がると 考えられるが、これも決勝に出場するような国ではないだろうから、無視していい。
 どの国が最マイナー国かはわからないが、いくつかの候補国はわかった。某雑誌の企画として、編集者と編集長と私の3人がクイズ形式で検索ごっこをやって みると、意外にヒット数の多い国などあって、なかなかに興味深い結果がでた。しかし、その調査が紙面に登場することはなかった。編集長が集計用紙を紛失し てしまったからだ。充分楽しんだ調査だったから、紙面で紹介されなくてもいっこうにかまわないのだが、ここでその結果を発表できないのは残念だ。読者が自 分でやろうとすれば簡単にできる調査だから、もし興味あればやってみればいい。
 私は小学生時代から地理少年だったし、地図を眺めているのがいまでも好きだから、国の名前さえ聞いたことがないという国はない。白地図に国名を記入する という設問なら、アジアは全部できるし、アフリカも中南米も70点くらいはとれるかもしれない。しかし、まるでダメなのが、旧ソビエト崩壊後の独立国や東 ヨーロッパ地域と太平洋地域だ。冷戦終結後に誕生した新国家の名前と位置関係がほとんどわかっていない。わからないのにそのままにしているのは、ただたん に興味がないからだ。太平洋地域も同じ。いままで一度も「行ってみたい」と思ったことがない地域のことは、まるで知らないものだ。