69話 ワープロ専用機「ライター」を作ってくれ


 この原稿も、東芝ルポで書いている。コンピューターは持っているが、ほとんど検索専用機 になっている。こういうライターはよほどの珍種かと思ったが、そうでもないらしい。コンピューターは持っているが、原稿は手書きとか、ワープロで打ち、フ ロッピーに保存し、メールで送るという人もいる。私もその方法を採用したいと思ったのだが、MS−DOS変換したフロッピーをコンピューターに入れてもな んの反応も示さないので、しかたなく、短い原稿ならファックスで、長い原稿ならフロッピーを郵送する。
 ふだんワープロを使っている者の悩みは、いま使っているこのワープロが故障したらどうしようという不安だ。ワープロ専用機の生産はすでに終わっているか ら、中古品を入手するしかない。私はいまこの原稿を打っているワープロを一台持っているだけだから、故障したときのことを考えて、できればこれとまったく 同じルポを少なくとももう一台備えておきたい。そこで、家電の中古店やインターネットで中古のワープロ探しをやってみたが、同じ機種となるとなかなか探せ ず、あってもかなり高い。なにしろ、私のワープロは発売当時の定価が20万円近くしたのだからというのはたいした理由にはならず、そのくらいの価格だった ノートパソコンの中古品ならもっと安い。いまさらウインドーズの「95」や「98」を買おうという客はあまりいないのに対して、ワープロを欲しがる客は けっこういるということだろう。そういう人がみな、私のように原稿をワープロで書いているということではないだろうし、フロッピーで保管している住所録や 名簿を呼び出したいという人もいるだろうが、ワープロが欲しいということには変わりはない。
 そこでだ。起死回生をはかりたい中小企業の経営者諸氏、いま新型ワープロを発売しませんか。「なにを時代錯誤!」と思うかもしれないが、それは情報不足 だ。音楽の世界ではCDが当たり前の時代になって、レコードなど前世紀の異物だと思われていたが、いまもレコードプレーヤーは売っている。カセットデッキ もまだある。二槽式洗濯機もまだ売っている。上部が冷凍庫になっている冷蔵庫もまだ売っている。自動車ではまだマニュアル車がある。ワープロは過去の異物 ではなく、工夫すればいまでも存在価値のある商品なのだ。旧製品も、利点はあるのだ。消費者がみな、なんでもできる高性能パソコンを欲しがっているわけで はないのだ。
 新型ワープロは、文章作成(文書作成ではない)に特化する。会社の文書作成はパソコンにまかせて、新型ワープロは文章を書く人向きにする。「文豪」とい うワープロがどこまで文豪向きにできていたか疑問だが、今度のワープロは名実共に「ライター」である。旧字体や人名などでよく使われる中国の漢字などが簡 単に取り出せたり、人名・地名などの固有名詞の変換が簡単。機械に無知だから勝手なことを言うが、どんな機種で保存したフロッピーも呼び出せる互換性が欲 しい。記憶容量は昔のパソコン程度でいい。印刷機は着脱式にすれば、持ち運びにも便利だ。
 値段は、電子辞書と組み合わせてメーカー希望価格89000円というのでいかがですか。もちろん安いほうがいいが、新聞に一面広告を出して大量に売るという商品ではないので、価格が高くなるのはいたしかたない(そんなら、DELLを買いなさいという声が聞こえそうだ)。
 こんなことを思いついたのは、いいワープロが欲しいという個人的事情からなのだが、それだけではない。定年を機にパソコンを買い、パソコン教室に通った ものの、ほとんど使っていないという人がけっこういるらしいという話を聞いたからだ。インターネット検索のやり方を覚えても、調べたいことがない。友人知 人に電子メールを送ろうと思ったが、相手がパソコンを持っていないとなげいているうちに、携帯電話でメールが打てるようになって、パソコンの出る幕がなく なった。けっきょく、パソコンを使うのは年二回、年賀状と暑中見舞い作成のときだけだから、超高額のプリントゴッコを買ったのに等しい。それならば、新型 ワープロのほうが操作しやすいし、安いのだから、商品価値はある。そう思ったのである。
「そんなことを考えずに、パソコンに慣れなさい。一カ月もすれば、違和感などなくなるよ」と、季刊旅行雑誌の編集長はいうのだが、いまのところ「ヤーだよ」と答えておこう。