72話 家電の世界


  日本には世界的な家電(家庭用電気器具)メーカーがいくつもあるせいか、あるいはそれが日本人の好みなのか、家庭にはじつに多くの家電製品がある。家電製 品といっても、テレビやステレオコンポのように世界各国に普遍な製品と、自動餅つき機のようにおそらく日本にしかないと思われる製品もある。むかし新聞広 告に「自動ゴマすり機」というのがあって、笑ってしまった。文字どおりゴマをする機械なのだが、その広告を目にしたとたんに、クレージーキャツの「ゴマス リ行進曲」を思い出したからだ。この自動ゴマすり機というのは、業務用では外国にもあるだろうが、家庭用となると日本以外にもあるのだろうか。
 日本にも外国にもあるが、使い方がちがうというものもある。イラン向けに生産された電気炊飯器は、おコゲが好きな人が多いので、わざとおコゲができるよ うに調整してあるという話は以前に読んだことがある。タイでは煮物鍋やホットプレートとして電気炊飯器を使っているのを、実際に見たことがある。スペイン では、バル(バーと軽食堂が合体したもの)の調理場で、ホットプレートを見たことがある。夕方の仕込みの時間で、ホットプレートでパエリアを仕込んでい た。いいアイデアなので、私も日本でマネをしてみたら、うまくいった。
 日本にあって外国にはないという家電製品はいくらでもありそうだが、逆に外国にはあるが日本にはないという家電製品はあるだろうか。家電といってもその 範囲はじつに広いので、台所に限定して考えたい。そうしないと、電動ハナ毛切り機とか各種アイデア製品も入ってくるので、収拾がつかなくなるからだ。
 建築家で道具研究家の山口昌伴さんに教えていただいたのは、フライヤー(電気揚げ物機)だ。日本ではレストランやホテルの厨房や肉屋などにあるが、西洋 では家庭の台所にあるという。日常的によく食べるフライドポテトを作るためだ。高価な輸入システムキッチンには、このフライヤーが組み込まれているものが ある。日本人とちがって主食のように大量のジャガイモを食べる人たちなので、ジャガイモを棒状に切る機械も販売されている。
 そういえば、むかし、テレビの通販番組で電気鍋を見たことがある。煮込み用の深鍋で、「タイマーをセットしておけば、外出中に加熱し続けて、大きく堅い お肉も、ほらこんなに柔らかく」と宣伝していたが、あの鍋は日本ではあまり売れなかったのではないか。日本では大きな肉のかたまりをそのまま料理すること はめったにないし、主婦は電気代のことも心配したのだろう。
 ワインセラーというのも、かつては西洋独特の電気製品だったが、最近では日本でも少しは売れるようになったらしい。
 韓国にはキムチ用冷蔵庫がある。伝統的には、キムチは庭に埋めたカメにいれて保存していたのだが、都会でアパート暮らしをする人が増えて、キムチを入れ たカメはベランダに置かれることになったが、夏は発酵が進んでしまう。そこで冷蔵庫に入れることになったのだが、量が多いということと、他の食べ物に匂い が移ってしまうという問題があって、専用の冷蔵庫が開発された。たんに低温で保存するというだけではなく、発酵にあった温度管理ができるらしい。
 中国には行ったことがないし、台湾にもながらく行っていないので、中国人世界の家電製品事情がよくわからない。20年もむかしの話なら、日本に来た台湾 人旅行者が保温式電気炊飯器を買って帰ったという話を聞いたことがあるが、最近は台所用家電をわざわざ日本で買うということはないのかもしれない。そし て、中国料理を日常的に食べている人たち向けのユニークな家電があればおもしろいと思うのだが、はたしてそんな物が存在するのだろうか。例えば、電気お粥 機とか?