古本屋の特価本コーナーで、『海外旅行案内』(日本交通公社)の1977年版を見つけた。定価は4800円で、古本屋では通常2000円から3000円くらいの値段がついている。これが100円だから、もちろん買った。
日本交通公社が戦後初めて発行した本格的海外旅行のガイドブックは、1952年の『外国旅行案内』で、毎年改定して出版された。1977年に『海外旅行案内』と書名が変わり、82年まで出版された。
この書名変更でもわかるように、昔は「外国旅行」と言っていて、「海外旅行」という言葉は新しいらしい。その『外国旅行案内』も68年版をすでに持ってい るが、その内容を紹介するのではあまりに隔世の感がありすぎるので、77年版から当時の海外旅行事情をちょっと紹介してみよう。
本題に入る前に、これから航空運賃などさまざまな値段が出てくるので、77年ころの物価を『値段の風俗史』(朝日文庫)からいくつか書き出してみよう。
カレーライス 350円
ラーメン 280円
日産ブルーバード 960,000円
帝国ホテル(シングル) 6,000円
小学校教員初任給 92,756円
ということは、若いサラリーマンの月給はだいたい十数万円ということになる。だから、この『海外旅行案内』は一日分の稼ぎに相当する。今なら一万数千円の本ということになる。
さて、本題に入る。「旅行計画と費用」 この項で76年現在のLOOK(交通公社の海外ツアー)の料金を紹介している。
・世界一周(21日間) 1,090,000円
・グランドハワイ(8日間) 290,000円
・ラスベガスとアメリカ西部・ハワイ(9日間) 468,000円
・ヨーロッパルート22(22日間) 725,000円
・バリ島・ボロブドールの遺跡と東南アジア(11日間) 385,000円
・デラックス香港・マカオ(4日間) 188,000円
いずれも料金が高いツアーを紹介しているようだが、香港への安いツアーなら、月給分くらいで海外旅行ができるようになった時代だとわかる。ちょっと無理して、ハワイに新婚旅行という時代の始まりでもある。
70年代初めに、航空運賃の団体料金が大幅に割引されて、ツアー料金が60年代のものと比べていっきに半額ほども安くなった結果が上記の料金だ。ツアー に参加すれば、以前と比べて海外旅行は身近なものになったが(あくまでも60年代の料金と比べてということであって、現在と比べてという意味ではない)、 個人旅行はまだまだ高い。航空運賃が高いからだ。
そこで、次に当時の航空運賃を紹介してみよう。東京発のエコノミークラス片道運賃である。ちなみに、当時はまだ格安航空券は「知る人ぞ知る」という程度 の存在で、旅行業界に強いコネがある人か、私のように貧乏だがヒマがあるという若者が探しまくってやっと見つかるというような存在だった。
航空運賃
カトマンズ 170,000円
カルカッタ 155,000円
クアラルンプール 122,000円
ジャカルタ 141,000円
シンガポール 123,900円
バンコク 112,700円
ソウル 34,400円
ホンコン 77,300円
グアム 55,000円
ホノルル 124,100円
シドニー 230,700円
カイロ 271,700円
ナイロビ 266,200円
サンフランシスコ 154,600円
ニューヨーク 204,000円
サンパウロ 309,700円
ヨーロッパ全都 市 312,500円
ただし周遊料金という のがあって、たとえば14日以上21日以内という規定を守れば安くなるというのだが、安いといっても往復運賃の1割引き程度だから、割安感などない。東 京・ホノルルの往復運賃は248,200円で、周遊料金は230,500円だから、その差額はわずか17,700円でしかない。
この時代に、日本人がタイ旅行を計画したとする。ツアーではなく個人旅行をするとしたら、往復運賃は約23万円だ。現地滞在費も含めて30万円の海外旅 行とすれば、3か月分の月給を費やすことになる。現在なら60万円以上の旅ということになる。正攻法ではこういう計算になってしまうから、貧乏だけどヒマ はあるという若者は、安い船を探し出したり、学生割引きを探したり、旅行社に通ってコネを作ったりしたのである。