128話 アジア関係出版物年表(1945〜1979 ) あるいは「青少年時代に、こんな本も読んでいた」


 戦後のアジア関係書を出版年別に並べてみると、なにが見えるだろうかと思い、年表を作っ てみた。資料は大阪のアジア図書館の図書目録などいくつもあるが、まったく知らない本の名前を書き出してもおもしろくないので、自分が読んだことがある本 を中心に、バランスも考えて未読の本も多少加えた。出版年と同時代に読み始めるのは、1963年の『アラビア遊牧民』(本多勝一)あたりからで、それ以前 に出版されていた本は、のちに古本屋で買って読んだ。読んだ時期はいろいろで、56年の『マナスル登頂記』は60年代後半ころには読んでいるが、57年の 『ロンドンー東京5万キロ』を読んだのは2002年ころだと思う。そのくらいの時間差はある。
 この手のリストはこれまで何度か作ったことがあるが、おもしろいことにリストに入れる本が見つからない年と、数が多すぎて選択に困る年がある。たとえ ば、1968年には、リストに入れたい本が多すぎてカットしたが、翌69年になるとリストに入れる適当な本がとても少ない。全体的に言えば、70年以前の 本はできるだけリストに入れ、70年以降の本は大幅に省略している。「あれが、あった。これも入れようか」と考えると収集がつかなくなるので、適当に選択 した。
 この年表を見ると、情報を伝える側が戦争体験者から学術探検者になり、そして新聞やテレビのマスコミ人になり、70年代末に山口文憲というただの個人に なるという変化がよくわかる。つまり、戦後の日本人とアジアの関係がよく見えてくるのである。こういうことは、とっくに想像がついていたことではあるが、 実証的に調べてみようと思ったのである。
 付録として、サンケイ新聞社の「誰も書かなかった○○」シリーズのリストを書き出した。このシリーズは最初の『誰も書かなかったソ連』が大宅賞を受賞し たことでシリーズ化を決めたのだろうと思う。というのも、『ソ連』はハードカバーで出たが、このあとはソフトカバーに変わっている。取り上げる国によっ て、内容のレベルにかなり差があるのが問題だが、ここではレベルには触れない。アジアの本に関して言えば、この当時、「アジアはどうあるべきか」や「日本 人はアジアをどうとらえるべきか」といった「べき」の本が多いなかで、このシリーズは生活に近い部分の話題を扱った点に最大の功績があると思う。例えば、 鈴木明の『台湾』では、路上を走る自動車から経済関係を考え、歌謡曲テレサ・テンを紹介している。こういう話題をシリーズとして取り上げた本は、それか ら20年後のトラベルジャーナルの「アジアカルチャーガイド」シリーズまでない。つまり20年早かったのである。 
 なお、シリーズで発売された旅行ガイドブック(JTBやブルーガイドなど)と語学書は省略した。また、翻訳文学や学術書も数が多いので、このリストには ほとんど加えなかった。中国や北朝鮮の本がほとんど入っていないのは、この時代にはおもしろそうな本が見つからないからだ。

1948 ビルマの竪琴竹山道雄
1949 俘虜記(大岡昇平
1950 潜行三千里(辻政信
1952 野火(大岡昇平
     バタアン死の行進(火野葦平
1953 秘録大東亜戦史(富士書苑)
     アジアの目覚め(サンタ・ラマ・ラウ)
1956 モゴール族探検記(梅棹忠夫
     マナスル登頂記(槙有恒編)
1957 ロンドンー東京五万キロ(辻豊・土崎一)
     インドで考えたこと(堀田善衛
     カチン族の首かご(妹尾隆彦)
     コーラン井筒俊彦
1958 朝鮮(金達寿
     イスラーム(蒲生礼一)
1959 メコン紀行(東南アジア稲作民族文化綜合調査団編)
     秘境ブータン中尾佐助

1960 敦煌井上靖
     蒼き狼井上靖
     鳥葬の国(川喜田二郎
     スージー・ワォンの世界(リチャード・メイソン)
     世界紀行文学全集 14 南アジア(志賀直哉ほか監修)
1961 何でも見てやろう(小田実
     写真集 東南アジア(丸山静雄)
     写真文集 中近東諸国(牟田口義郎)
     中近東を行く(NHK取材班)
     黄色い革命(大宅壮一
1962 アラビアのロレンス(R.グレーヴス)
     東南アジアの自然をたずねて(NHK取材班)
     むくどり通信 東南アジア・中近東の旅(臼井吉見
     東南アジア(丸山静雄)
     アーロン収容所(会田雄次
     僕の東南アジア旅行(大山高明)
1963 インドで暮らす(石田保昭)
     トングー・ロード ビルマ賠償工事の5年間(伊藤博一) 
     アラビア遊牧民本多勝一
     朝鮮現代史(金三奎)
     胎動するアジア(NHK取材班)
     李朝残影(梶山季之) 
1964 香港(姫宮栄一
     アジアの悲劇地帯(栃窪宏男)
     おんぼろ号の冒険(望月昇)
1965 南ベトナム戦争従軍記(岡村昭彦) 
     ベトナム戦記(開高健
     アジアの十字路(NHK取材班)
     ユンボギの日記(イ・ユンボギ)   
1966 東南アジアの旅(石井出雄)
     現代世界ノンフィクション全集 全24巻(筑摩書房
     西域探検紀行全集 全15巻(白水社
     アリランの歌(ニム・ウェイルズ)
     栽培植物と農耕の起源(中尾佐助
     インドネシア(増田与)
     アラビア遊牧民本多勝一
     カンボジア訓練旅行(鈴木治夫、大石利雄)
     ベイルート情報(松本清張) 
1967 ベトナム観光公社(筒井康隆
1968 ラッフルズ伝(信夫清三郎、東洋文庫版)
     近代日本とアジア(大江志乃夫)
     香港(リチャード・ヒューズ)
     ボルネオの人と風土(海野一隆・林寿一)
     アジア文化探検(中尾佐助
     戦場の村(本多勝一
     ハノイで見たこと(松本清張
     遠くて近い国トルコ(大島直政)
1969 砂漠の反乱(T.E.ローレンス)
     中近東・アジア教養旅行(紅山雪夫)
   
1970 アカシアの大連(清岡卓行
     知られざるビルマ(大野徹)
     ハノイで考えたこと(スーザン・ソンタグ
1971 東南アジア紀行(梅棹忠夫
     南アジア旅日記(加藤秀俊
     朝鮮人のなかの日本(呉林俊)
     泥まみれの死 沢田教一ベトナム写真集(沢田サタ)
     メコンの渇き(山本利雄)
     隣人たちの素顔(サンケイ新聞アジア取材班)
     東南アジアの少数民族岩田慶治
     イスラムの世界(大野盛雄)
     アフガニスタンの農村から(大野盛雄)
1972 サンダカン八番娼館(山崎朋子
     アジア そこにいる僕ら(柴田俊治)
     タイ その生活と文化(星田晋五)
     北ベトナム本多勝一
     料理の起源(中尾佐助
     タイ国の花嫁さん(江口法子)
     車椅子のインド旅行(細田道子)
1973 アジアの孤児(呉濁流)
     街道をゆく2 韓の国紀行(司馬遼太郎
     ラダワン(島崎一幸)
     アジア留学生と日本(永井道雄、原芳男、田中宏
     ユーラシア大陸思索行(色川大吉
     象の白い脚(松本清張
1974 韓国からの通信(T・K生)
     アジアを歩く(深井聰男)
     インド・ネパール旅の絵本(清水潔
     大放浪(鈴木紀夫
     アジアからの直言(鶴見良行編)
     東南アジア周遊紀行(きだみのる
     バンコク秘密情報(村上吉男)
     シルクロード(並河萬里)
     私のなかの朝鮮人本田靖春
     特派員の目(週刊朝日編)
     タイ国王暗殺事件(レイン・クルガー)
     街道をゆく モンゴル紀行(司馬遼太郎)  
1975 パゴダの国へ(長澤和俊)
     サイゴンのいちばん長い日(近藤紘一)
     不帰(金芝河
     ソウル実感録(田中明
     南進の系譜(矢野暢
     赤道の旅(庄野英二
1976 からゆきさん(森崎和江
     タイの僧院にて(青木保
     シンガポール日本人学校日高博子
     特派員の目・東南アジア編(斧泰彦)
     国際都市香港の昼と夜(近藤龍夫)
     新・亜細亜風説書(大野力)
     高砂族に捧げる(鈴木明)
     東南アジアから見た日本(三浦朱門
     どくろ杯、ねむれ巴里(金子光晴、文庫)
1977 西ひがし(金子光晴、文庫)
     ベトナム解放(丸山静雄)
     東南アジア学への招待(矢野暢
     スマトラの曠野から(落合秀男)
     ソウルの冬バンコクの夏(猪狩章)
     民族探検の旅 全8巻(梅棹忠夫監修)
     インドへ(横尾忠則
     私たちのシルクロード(平山美和子)
     シルクロードの旅(陳舜臣
     シルクロードの旅(深田久弥
     黄金の三角地帯(竹田遼)
     中東への視覚(牟田口義郎)
     ソウルの華麗な憂鬱(崔仁浩)
     遥かなるラオス(久保田初枝)
     稲の道(渡部忠世
1978 黄金の日々(城山三郎
     「北朝鮮」の人びと(小田実
     恨の文化論(李御寧
     マレー蘭印紀行(金子光晴、文庫)
     ソウル遊学記(長璋吉)
     キムチとお新香(金両基
     地雷を踏んだらサヨウナラ(一之瀬泰造)
     カンボジアはどうなっているのか?(本多勝一
     スンダ生活誌(村井吉敬
     アジアを歩く(日本アジア・アフリカ作家会議編)
     再発見アジアを知る法(大野力)
     インド・ネパール旅カタログ<ライブ>(インド・ネパール精神世界の旅編)
     メナムの残照(トムヤンティ)
1979 香港 旅の雑学ノート(山口文憲
     アジア人の自画像(室謙二
     インド即興旅行(河野典生山下洋輔
     サイゴンから来た妻と娘(近藤紘一)
     さよなら・再見(黄春明)
     中国人の生活風景(内山完造)
     星降るインド(後藤亜紀)
     新世界事情(読売新聞外報部)
     サバ紀行(吉川公雄
     日本の南洋史観(矢野暢
     日系インドネシア人(栃窪宏男)
     タイ・密林の解放戦線(芝生瑞和)

  付録1 「誰も知らなかった○○」シリーズ(サンケイ新聞社)
1970 ソ連(鈴木俊子)
1974 台湾(鈴木明)、中国(包若望ほか)、韓国(佐藤早苗)アラブ(山口淑子
1975 インド(高尾栄司)
1976 アメリカ(デビット・クン)
1977 北朝鮮加瀬英明)、スウェーデン武田龍夫)、続・台湾(鈴木明)、カナダ(松下哲雄)
1979 香港(三原淳雄)、タイ(大貫昇)
1980 アフガニスタン松浪健四郎)、アラスカ(ジョン・クー、村田昭敏)、ブラジル(鈴木一郎)、ポーランド(R.トゥルーキー)、メキシコ(中村淳真)、バチカン金山政英
1981 リヒテンシュタイン(大石昭爾)
1982 オーストラリア(黒田春海)
1983 フィリピン(野々宮正樹)
1985 イタリア(町田亘)

  付録2 SASシリーズとアジア
ジュラール・ド・ヴィリエの「プリンス・マルコ」シリーズは、1970年代から80年代に外国に興味を持っていた日本人によく読まれた小説だ。映画では 「若大将」と007のシリーズがあり、小説ではこのシリーズだ。多分、日本では創元推理文庫から51冊出版されているはずだが、そのなかからアジア関連の ものだけを出版順に並べてみよう。
1979 イランCIA対マルコ
    日本連合赤軍の挑戦
    ヨルダン 国王の危機
    訒小平の秘命
    イスタンブール潜水艦消失
1980 シンガポール 華僑の秘密
     クワイ河の黄金
     カンボジア式ルーレット
1981 サイゴン サンライズ作戦
     香港 三人の未亡人
     バグダッドの黒豹
     バリ島の狂気
     ラオス 黄金の三角地帯
1982 ベイルートの連続殺人
     セイロン 舎利塔の秘宝
     イスラエル 嘆きの壁の女
1983 アブダビ王宮の陰謀