あいも変わらず、ネット書店巡りをしている。
ある本を読んでいて、おもしろそうな本が紹介してあったり、参考文献リストに興味深い本が見つかると、コンピューターの電源を入れる。調べてみたくなるじゃないですか。
最近出た本なら、まずアマゾンでチェックする。これで、出版社や定価がわかる。しかし、すぐさま買うほどウブではない。アマゾンでは、本によって内容の 紹介がないものもあるから、その出版社のホームページを覗いたり、インターネットで書評を検索したりして、買うかどうか検討する。
古い本で、すでに絶版になっているだろうと思われる場合や、安く買いたいと思うときは、ネット古書店を利用する。アマゾンの古書コーナー「マーケットプ レース」は比較的新しい本しかないから、古書捜査の優先順位は、「楽天フリマ古書店街」(旧称EasySeek 古書店街)が第一位だ。探している本が学 術書に近いものなら、「日本の古書店」から覗くこともある。「スーパー源氏」も一応「お気に入り」には入っているが、欲しい本が見つかったことは一度もな く、したがって一冊も買ったことがない。私の好みと「スーパー源氏」は相性が悪い。「好み」というのは本の好みだけでなく、「スーパー源氏」のトップペー ジのデザインも、「おもしろい本が見つかりそうだ」という気などとてもしない。
以上の捜査でも見つからないときは、拡大捜査となって、googleで探す。
「楽天フリマ古書店街」が好きなのは、広いジャンルで検索すると知らない本が引っかかるからだ。よく使うのは「地理・旅行ガイド」のコーナーで、約1万 6000冊の古書がリストに載っている。全点チェックするときもあるが、面倒だと思うときは「東南アジア」や「アフリカ」などをキーワードにして絞り込 む。
先日買った3冊もそうやって買った。
『王は闇に眠る』上下(フランシーヌ・マシューズ著、中井京子訳、新潮文庫、2003年)は、いわゆる「ジム・トンプソン物」だが、そんなことはこの古 本屋サイトをチェックするまで知らなかった。タイの戦後史を扱ったミステリーなのに、どうやらチェックもれだった。
さっそく読んでみたが、まあ、読まなくてもよかった本だ。著者はCIA職員からジャーナリストになり、現在作家ということなのだが、話がヘタな作家だから読み続けるのに苦労した。
この手の小説には、原文に出てくるローマ字タイ語に訳者は苦労して、変なカタカナ・タイ語になりがちだが、そういう個所はない。タイ関係の資料をネット で読んでいたら、この本の訳者は慶応大学のタイ語講座に通ったことがあるとわかった。なるほど。しかし、原文のおかしいところは勝手に直すわけにもいかな いので、ジクジたる思いだったろうか。たとえば、戦後まもなくのバンコクにトゥクトゥク(三輪自動車)が走っているという描写があるが、これは明らかに間 違い。1950年代末以降でないとおかしい。
楽屋話をすると、この小説がおもしろかったら、その話だけで雑語林一回分の原稿になるぞと期待していたのだが、残念。
さて、2冊目は『東アジアと東南アジアの船』(柴田恵司、長崎労働金庫発行、長崎労金サービス発売、1998年)。岩波ブックレットというのがあるが、 あれと同じサイズの「ろうきんブックレット」の一冊で、これが第6冊になる。定価は476円で市販していたようだが、現在では入手不可。こういう本は東京 の書店では見つからないから、ネット書店が大活躍する。販売しているのは、長崎の大正堂書店という古書店。この書店のリストを見ると、長崎学関連はもちろ ん、植物や食生活や芸能など非小説世界が広がっていて、私にとっては「入るな、危険!!」という書店である。うっかり手を出すと、たちまち注文しそうだか らアブナイのである。
さて、入手した『東アジアと東南アジアの船』はおもしろかった。有明海などで有名な潟スキーが東南アジアにあるとは知らなかった。絶滅したようだが、か つてはヨーロッパにもあったという。おもしろい本だが、なにせ、100ページ足らずのブックレットだから、おもしろさを充分に堪能できない。豪華客船など には興味はないが、木造船、とくにアウトリガーの小舟のことは知りたい。そこで、この著者が書いた本を検索してみたら東南アジアの船について書いた本が見 つかった。しかし、安くても12000円だから、「う〜む」と考えてしまったのだ。まあ、図書館で借りる本だな。
3冊目は『むくどり通信 東南アジア・中近東の旅』(臼井吉見、筑摩書房、1962年)。カッパブックスの全盛時代に筑摩も「グリーンベルト・シリー ズ」という新書を出していた。私が中学生時代に買った『アフリカ大陸』(今西錦司)もこのシリーズの1冊だった。
昔の旅行記を読むときにいつも気になるのは、旅の背後になにがあるかだ。海外旅行が自由化されていない1962年に、アジアからヨーロッパに2カ月の旅 をしている。手続き上、お上の許可が必要だし、金銭的にもスポンサーが必要だ。「背後の組織」は「あとがき」でわかった。アジア財団という組織だ。聞いた ことがありそうな、なさそうな組織なので調べてみると、アメリカのアジア対策組織で現在もある。一応民間団体ということになっているが、ホントのところは どうなんだか?
金ズルがそういう組織なら、反共宣伝本かと思ったがそうでもない。この本は旅行記ではあるが、いかにも「60年代のアジア本」という枠どおりの本で、つ まりあまりに政治的なのだ。国共内戦、冷戦、ベトナム戦争といった政治の時代であることはわかる。2カ月間に24カ国を訪れるというあわただしい旅にもか かわらず、著者はジャーナリストたちに会って、よく勉強している。しかし、おもしろくない。この、おもしろくない感じが、なんだかなつかしい。そうなんだ よな、60年代から70年代のアジアの本って、こういう感じで、まじめなんだけど、だからおもしろくなかったんだよな。
そういうことを思い出すという効用はあったが、新発見はない。
以上、送料も含めて2000円ほどのお遊び報告でした。