185話 旅行ガイドブックで紹介される国々(1)

  ダイヤモンドハンディガイドの場合



 ある出版社が、海外旅行ガイドブックをある程度まとめて出すとする。例えば第一期10冊 出すなら、どういう国を、どういう順序で出すかを考えるわけで、それは当然、売れるだろうと思われる順に選定しているはずだ。売れる順は、一般的にいえ ば、日本人訪問者数が多い国や地域が優先される、はずだ。
 この順序が、いつの時代も変わらないというわけではない。中国のように、かつて自由に旅行できなかった国は、その時代は選定されない。また、オリンピッ クブームなど時代の流行というのもあって、選択する国が変わることもある。あるいは、出版社のカラーやそのガイドブックのシリーズとしての特色によって も、選ぶ国に違いが出てくる。
 というようなことをふまえて、ガイドブックが選んだ国や地域の話をしてみよう。

  ■ダイヤモンドハンディガイド 世界の都市シリーズ
 かつて、ダイヤモンド社がこんな旅行ガイドを出していたとは知らなかった。もしかして古本屋で見かけたかもしれないが、記憶は一切ない。
 記録では、1968年と69年の2年間に8冊出していることがわかっている。8冊以上あるかもしれないが、どうもはっきりわからない。とにかく、その8冊のラインアップを紹介してみよう。

1968年出版
・サンフランシスコ・ロサンゼルス
ストックホルムコペンハーゲンアムステルダム
・ニューヨーク・ワシントン・ボストン
・ベルリン・フランクフルト・ハンブルグ
1969年出版
・マニラ・バンコック・クアラルンプール・シンガポール
・モスクワ・レニングラードキエフ
・ロンドン
・ローマ・ナポリフィレンツェ・ミラノ・ベニス

 この8冊のラインアップを眺めて、旅行に多少なりとも興味や知識がある人は、「なんだ、 この選定は?」と首をかしげるに違いない。ハワイ、韓国、フランスが欠けているのに、北欧が入っている。ということは、8冊ではなく、もっと出ていたので はないかと思われるのだが、確認のしようがない。オランダや北欧が入っているのは、KLMやSASが協力したのだろうかなどと考えてみるのだが、よくわか らない。
 この時代のオーソドックスなガイドブックでは、どういう国が選ばれているのかブルーガイド実業之日本社)で確認しておこう。
 1960年代(66〜69年)に出版されたブルーガイド海外版は、次のようになる。

1 香港・マカオ・台湾
2 スイス・オーストリア
3 ヨーロッパ一周の旅
4 ハワイの旅
5 メキシコの旅
6 世界一周 空の旅
7 パリとフランス
8 イギリスの旅
9 ドイツの旅
10 ヨーロッパ・ユースホステルの旅

 初期のブルーガイド海外版は、実質的には日本航空執筆、実業之日本社編集・発売といった 体制だったので、日航やジャルパックの営業と連動している。「世界一周 空の旅」という本が出たのは、1967年に日航が世界一周便を飛ばしたからだ。 「メキシコの旅」は、68年のメキシコオリンピック関連で登場している。
 上にあげたガイドブックを作っていた時代の、日本人旅行者の渡航先はどうだったのか。1967年の「訪問先国別・日本人海外旅行者数」のベスト10を調べてみた。

1 西ドイツ    9万4364人
2 香港      8万5512
3 台湾      7万2063
4 アメリカ本土  7万8776
5 イタリア    6万5100
6 スイス     5万5369
7 イギリス    3万7400
8 マカオ     3万6154
9 ハワイ     2万6915
10 タイ      2万4124

 この数字は各国の政府観光局の調査をもとに、日本の国際観光振興会がまとめたものだが、 なぜかフランスの数字が「不明」になっている。1970年代以降の資料で見ると、フランスに行った日本人はイタリアに行った人よりやや多いというくらいな ので、暫定5位がフランスかもしれない。