978話 大阪散歩 2017年春 第17回

 大阪の本 旅行書


 大書店の旅行書コーナーに行くと、「ああ、そうか」とわかることがいくつかある。外国旅行のガイドブックでは、バックパッカーの使用に耐えるのは、今はもう日本語のものでは「地球の歩き方」しかないことがわかる。日本人バックバッカーの減少と、ネット情報の氾濫が原因かもしれない。日本国内旅行の総合ガイドでは、そもそも使えるものはなにもない。現在の国内ガイドというのは、徹底的に「食べる」と「買う」に集中していて、好奇心や頭脳を刺激しないのだ。飲食店の情報だけは詳しいが、その土地の基本情報はほとんどない。旅をするのがそういう趣味の人たちばかりだから、「食べる&買う」だけのガイドブックで充分なのだ。
 例えば『地球の歩き方 ソウル』と同じような構成で、『地球の歩き方 大阪』というようなガイドがあればおもしろいのになあと思う。大阪編も、外国のガイドと同じ構成で作れば、市内交通の案内や、安宿街の解説、観光案内所の紹介。空港から街までの詳しい案内、空港のフロアガイド、大阪の歴史など、会話ガイドなど外国のガイドでやったことと同じ構成でいいのだ。特別なことはやらなくても、使えるガイドができると思うのだが、そういうガイドがないということは、そういうガイドブックを使おうという旅行者がほとんどいないということだ。というわけで、「食う」と「買う」以外の情報が欲しければ、ロンリープラネットの“Japan”を買うしかない。都市別では”Tokyo”と“Kyoto”はあるが、残念ながら”Osaka”はない。日本人でも、日本を徹底的に旅しようと思えば、英語のガイドブックを使うしかないというのが、日本のガイドブック出版事情だ。
 日本語のガイドブックの棚を見れば、京都物が圧倒的に多いということがわかる。エッセイなども含めたガイドブックの数を比べれば、天下の大阪は、世界の京都の20分の1くらいか、あるいはそれ以下かもしれない。
 1990年代に、フランスのガリマール社が出した本の翻訳で、「望遠郷シリーズ」というのがあった。版元は、今は亡き、同朋舎出版だ。広い意味では旅行ガイドだが、街の地理や建築物や音楽や動植物などをイラストで解説するもので、十数点出版されていた。私は『タイ』など何冊か買っている。
 JTBパブリッシングの「ニッポンを解剖する図鑑シリーズ」を書店で見た時の印象が、あの「望遠郷シリーズ」だった。この「解剖図鑑」は、次のようなラインアップだ。( )内は出版年月日。『東京』(2016,8,5)、『京都』(8,23)、『名古屋』(9,30)、『沖縄』(12,9)。現在、この4冊が出ている。『沖縄』が出てすでに5か月たつが、『大阪』はまだ出ない。時間の問題で、いずれ大阪編も出版されるかもしれないが(どうだろう? 続巻があるとしても、福岡や札幌が先か?)、その順位は良くても第5位だ。大阪は、旅行先の重要度では5位以下の街ということだ。
 今回の大阪散歩のために、いい地図が欲しかった。いい地図というのは、詳細だがコンパクトで見やすいといった要件を満たすものを探し、数点買ってみたが、結果的に常に持ち歩いていたのは、『まっぷる超詳細! 大阪さんぽ地図 mini』(昭文社)だった。扱う範囲が狭いのが難点だが、その範囲内で散歩するならいい出来だといえる。特殊な紙を使っているようで、水や摩擦に強く、折れたり破れたりしにくい。mini版だから、バッグの出し入れが簡単だ。
 ほかに、ガイド的な本のなかから、「これはおもしろかった」という本を紹介しておく。
『パキやんの大阪案内 ぐるっと一周「環状線」の旅』(趙博、高文研、2012)
『カリスマ案内人と行く大阪まち歩き』(栗本智代、創元社、2013)
『大阪まち物語』(なにわ物語研究会、創元社、2000)