1206話 プラハ 風がハープを奏でるように 第15回

 散歩のガイドブック

 

 いままで、中2日という更新間隔でやって来たが、まだ公開していない下書きだけで3万字くらいあり、それでも構想している全体の半分にもならない。このままでは来年春になってもまだ終わらないかもしれない。買い集めた資料はほとんど読み終えたので、そろそろ更新間隔を中1日にしようかと思う。肩を痛めそうになったら、ちょっと休めばいいのだ。というところで、今回はこういう話を。

 

 どこの国に着いてもまずすることは、両替をしたら地図を手に入れることだ。私はスマホタブレットも持っていないので、印刷した地図が必要なのだ。宿や観光案内所に簡単な市内地図があるので、とりあえずその地図を手に入れて眺め、わが宿の場所に印をつける。その地図を手に適当に歩き、本屋を見つけたら、詳しい地図を探す。大きな一枚地図は全体を眺めるにはいいが、扱いにくいので、区分地図を探す。

プラハの本屋ではいくつかの大きさの区分地図を見つけたが、英語の説明入りのものは見つからなかった。道路名などはもちろんチェコ語でいいのだが、施設名などには英語の表記も欲しかったのだが、それは無理らしい。

 “PRAHA  plan mesta 1:20000”という区分地図を買った。これで、プラハ全域の地図と地下鉄・トラム(路面電車)、そしてバスの路線もわかるから使い勝手がいい。散歩者である私には、ガイドブックに載っているような観光客密集地域だけの地図ではなく、プラハ市全域の地図がないと困るのだ。プラハ市がどういう姿をしているのか確認したいのだ。価格は149コロナ、日本円にして約750円ほどなのだが、インターネットでこの地図に関して調べていたら、日本のアマゾンがヒットして、13,164円で売っていることがわかったが、何だよこの値段。同じものか?

 日本から持って行った本でもっとも役に立ったのは、『プラハを歩く』(田中充子、岩波新書、2001)だった。プラハに留学経験のある建築史家が書いた「建築から見るプラハ」ガイドなので、実におもしろい。旅行前に一度目を通したのだが、現場で読むと、より一層臨場感が増して、理解が深まる。建築史や建築技術の説明もある。石の建造物を建てるには、足場を含めて大量の木材が必要なのだという話は、「なるほどなあ」と理解できた。石がなくても木の家は建つが、木がなくては石の家は建たないのだ。大きく重い石を引き上げるには、頑丈な足場が必要なのだ。屋根も床も木が必要だ。石の家は暖房効率が悪いのに石を使い続けたことから、石と木の文化の違いに言及するが、プラハの建築ガイドというこの新書の性格上、深い考察はない。その方面の情報は、同著者による『プラハ 建築の森』(学芸出版社、1999)などを読む必要がある。

 プラハは、建築見物が楽しいと思うのは多くの旅行者の共通認識のようで、建築物の写真を集めた本はいくらでもある。いくつもの雑誌がプラハを取り上げているが、「芸術新潮」(1999年11月号)が「麗しのプラハ」という特集をしている。これは、この時期に東京世田谷美術館が「煌めくプラハ 19世紀末からアールデコ」展と連動したものだ。「ああ、プラハに行きたいなあ・・・」と思わせるには効果的な誌面だ。

散歩の実用ガイドとしてもっとも役に立ったのは、プラハの本屋で手に入れたこの本だ。ロンドン、パリ、ベルリンなどの建築ガイドを出しているドイツの出版社の本だ。

”PRAGUE  The Architecture Guide”(Chris van Uffelen, Markus Golser、Braun Publishing AG, 2013)

 399コロナは約2000円。オールカラーのプラハ建築カタログ。地図・索引付きだから、至れり尽くせり。数多く出版されている「古き良き時代のプラハの建築」だけを扱っている本と違い、10世紀末のロマネスク様式から、この本の出版当時の最新の建物まで扱っているから、私のような建築散歩者には絶好だ。

 この本をバッグに入れてプラハを歩いた。夜はこの本をチェックして散歩計画を立てて、翌日出かけた。それでわかったことは、この本は素晴らしく良くできた本ではあるが、この本でも触れていない建造物がいくらでもあることだ。散歩をしていて、「おや、これは、いったいなんだ?」と気になる建物に出会い、その正体をこの本で調べても載っていないことが多い。プラハは「百塔の街」と呼ばれている。塔のある建物などいくらでもあるのだ。ほかの街なら、ガイドブックである程度の行数で紹介されるに違いない建造物が、プラハでは地区予選さえ通過しないのだ。

 ちなみに、帰国後、この本はアマゾンでも手に入ることがわかった。3235円だ。

https://www.amazon.co.jp/Berlin-Architecture-Guide-Guides/dp/3037680830/ref=sr_1_fkmr0_4?s=english-books&ie=UTF8&qid=1542601336&sr=1-4-fkmr0&keywords=plague+the+architecture+guide+braun

 本屋に行くと、チェコの建築の本はいくらでもあり、欲しくなる本が多いのだが、高くて重い。「見れば終わりだから、買うのはなあ」とためらっていたら、プラハ市立博物館の児童学習室のようなところに、「写真で見るプラハ今昔」といった感じの写真集が2冊置いてあって、じっくり読ませてもらった。今昔といっても、同じ街角が100年前と看板が違うだけでまったく同じというのがプラハだとわかる。

 

f:id:maekawa_kenichi:20181209115455j:plain

 市立博物館の一室で見つけた本を眺めて午後を過ごす。上の写真はバーツラフ広場から国立博物館を見た風景。

f:id:maekawa_kenichi:20181209115657j:plain

 こちらは旧市庁舎。左はまだ旧市庁舎があったころ。ナチス・ドイツによって破壊され、そのあとは再建されず、そのままになっているのが、現在の右の写真。

 

 プラハの建築の話は、いずれゆっくりする。