210話 DVD版「快傑ハリマオ」を買ったぞ


  この欄で、往年のテレビドラマ「快傑ハリマオ」の話をたびたびしてきた。ドラマ関連の資料を読むと、東南アジアロケをやったことはわかっているから、どう いうアジアが写っているのか見てみたかった。DVDも発売されているから買えばいいのだが、1話が13回分あって全5話。DVDは1話が4枚で計3万円ほ どする。3万円だして買うほどのことはないなあと思っていたが、2006年から事情が変わってきた。
 第1話「魔の城篇」や第2話「ソロ河の逆襲」が、神保町の書店で1枚500円で売っているのを見つけた。1話が4枚だから、1話が合計2000円ということになる。これならば買える。
 さっそく買って見ると、懐かしきテーマソングが流れてきて、たちまちのうちに気分は前髪を切りそろえた半ズボンの少年に戻ったのだが、内容はまるで受け 付けない。それで思い出したのだが、当時の前川少年は、自分が少年であるにもかかわらず、子供向け番組が嫌いだった。子供向けの本も読む気がなかった。子 供嫌いの子供だったのである。幼稚園児でも、荒唐無稽を受け付けないリアリズムのガキだったのである。だから、「子供だまし番組」は、数回は見ても、継続 して見る気はしなかったのだ。
 そんなわけで、「快傑ハリマオ」は、1話と2話のDVD計8枚買って、お付き合いを終わりにした。そのはずだったのだが、先日秋葉原で、第3話の廉価版 を見つけてしまった。海外ロケをした「アラフラの真珠篇」である。秋葉原価格は1枚485円で、もちろんすぐさま全4枚を買い求めて、ついに見た。海外ロ ケをした日本初のテレビドラマだ。
 「第1回 ハリケーンの来襲」が始まったとたん、まだタイトルが出る前に、象に載ったハリマオたちが写る。1960年のタイだ。明らかに海外ロケだとわ かるのは、タイ(バンコクとバーンセン)と、カンボジアアンコールワット)と香港で、だから私の知らない昔の風景が見られるのかと大いに期待して、画面 をみつめた。1960年のアジアは、ほんのちょっと写るだけだ。外国はちらっと写るだけで、ほとんどは日本国内の「熱帯アジアということにしている風景」 で、撮影しているのだ。ああ、がっかりだ。
 風景シーンだけでも長時間あれば嬉しいのに、なんとまあもったいない。車から街を撮影するだけなら、手間もカネもかからないのだから、そういうシーンを 豊富に入れて、「さあどうだ、海外ロケだぞ!」と自慢してほしかった。膨大なカネを使って、せっかく外国に行ったのに、外国で撮影したシーンがとても少な いのだ。
 どうしてそうならなかったのか考えてみると、子供向けテレビ映画に、場の雰囲気を伝える風景シーンなど退屈なだけで、必要ないと考えたのだろう。そして、もうひとつ頭に浮かんだのは、風景の意味だ。
 バンコクの街のシーンが出てくる。路面電車が走っている。「ああ、これがバンコク路面電車か」と思うのは、2007年の私であって、1960年代の前 川少年は、もちろんそれがバンコクだということはわからない。ニューヨークやロンドンなら、日本人の誰でもどこに住んでいても、それが日本の街ではないと わかる。しかし、それがバンコクだとどうだろう。四国や九州の小さな町に住み、県庁所在地にさえ行ったことがない少年にとって、東京とバンコクの違いは、 映画に一瞬でてくるシーンでは区別がつかなかったのではないだろうか。
 そう考えると、「さあ、どうだ。海外ロケだぞ」と自慢なのは、制作サイドの大人たちだけで、ドラマを見る少年たちにとっては、第1話や第2話に出てくる 日本のなかの東南アジアでも、なんら問題がないだろう。悪党がいる植民地本部は、明治神宮外苑絵画館だし、表参道もよく登場する。築地本願寺も登場する。 それらが東京にある施設だと現在の私は知っているが、1960年代の、地方在住ハナたれ小僧やガキ大将たちは、単純に「異国」だと信じただろう。あのこ ろ、全国の少年たちにとって、東京は明らかに「異境・異国」だったのだ。
 そう考えると、同時期に海外ロケをした日活や東宝の映画が「異国」で撮影して、大人の観客たちに「異国情緒」を見せたのに対して、子供向けドラマにとっ て海外ロケは無駄な出費だったのかなあという気もしてくる。そんなことも含めて、「快傑ハリマオ」は、ドラマとしてはつまらなかったが、日本人にとっての 異国を考える資料にはなった。
 いずれ、「快傑ハリマオ」の第4話、第5話の廉価版も発売されるだろうが、もういい。もう買わない。別のネタを探すことにしよう。