222話 うれしいが、くやしいファーストフードの本 その3



 『ファーストフードマニア』のいいところは、インターネットのホームページの情報だろうが、企業の情報も書いていることだ。出店した年や全国の総店舗数といった基本情報だ。あるいは、経営母体の話だ。
 観察した記述として、台湾のスターバックスについて、こういう記述がある。

「高校生のおこづかいではスターバックスのコーヒーはかなり高め。そのため女子グループなどでは1人がコーヒーを買い、残り数名は水で粘るという風景も見受けられる」

 基礎データとともに、こういう観察記録も読みたいのだ。両方の情報をあわせると、コーヒーショップが、立体的に見えてくる。データだけでは退屈だし、印象記だけでは全体像を網羅できない。
 だからこそ、それぞれの国の物価をまとめて紹介しておいてくれたらよかったのだ。例えば、屋台での食事はいくら、とか、大学の食堂ではだいたいいくらと か、コンビニの飲み物はいくらとか、労働者の日給など基礎情報をまとめて1ページで書いておいてくれると、その国の事情に疎い読者でも読みこなせる。
 私がタイのハンバーガーショップ、つまりマクドナルドについて調べたときに感じたのは、ファーストフード店はけっして安い飲食施設ではないということ だ。コーラもハンバーガーにも興味がないので、調べなければ気がつかないことだった。たかがハンバーガー1個の値段が、屋台の1皿の料理よりもずっと高 かったのだ。ましてや、ピザショップは中級レストランの印象だ。
 だからこそ、ファーストフードというものに、アメリカ風の飲食チェーン店という枠をはめないほうがいい。ヨーロッパなら、バルと比較しないといけないし、東南アジアなら屋台と比較しないと、マクドナルドやスターバックスの姿が見えてこないのだ。
 『ファーストフードマニア』を読んでわかったのは、マクドナルドやスターバックスといった日本でも有名なファーストフード店(あるいはコーヒーショップ)を除くと、中国でも台湾でも香港でも、コーヒーショップではなく、日本でいう「ファミリーレストラン」だとわかる。
 本書では言及はないが、日本でも地方都市の喫茶店に行くと、うどんやチャンポンやカレーライスがあったりする。コーヒーだけでは商売が成り立たないの だ。「うちは喫茶店ですから、当然コーヒーだけでやっています」というのは、大都市でしかできない商売だ。コーヒーに限らず、専門店というのは大都会的商 売だということがわかると、中国のコーヒー店に中国料理もある理由が理解できる。つまり、まだ歴史が始まったばかりなのだ。
 さて、この本の巻末に、うれしいお知らせが載っている。この本が、「Vol.1」とあるように、以下続刊予定があるらしい。
第2巻 東南アジア編
第3巻 アメリカ大陸部
第4巻 ヨーロッパ編
第5巻 中東・アフリカ・オセアニア
第6巻 韓国編
第7巻 日本編

 この予定が、たんなる「ほら吹きラッパ」でないことを期待したい。