前回の出身地の話を書いていて思い出したのは、最近、旅から帰った友人たちが、同じ話をしていたことだ。
アジアを旅していて、観光地で、こう声をかけられることが多いというのだ。
「ハロー! アンニョン・ハシムニカ?」
あるいは
「ハロー! アー・ユー・コリアン?」
あるいは、
「コリアン? チャイニーズ?」
そういう話をしてくれた友人たちは、みな昔から旅をしてきたので、日本人客があまりいなかった時代も知っている。
「アジノモト! ホンダ! カラテ!」
「ハロー! ジャパン(ジャパニ)」
そして、「オオ・マイ・フレンド!が「ハロー! トモダチ!」になり、「ノー・タカイ!」どころか、日本長期滞在経験のある者がみやげ物屋で流暢な日本語で接客してくるという体験もしている。私とて同様で、私の知らない埼玉や群馬の地名を言い、そこに5年住んでいたなんていう話を、じつに流暢な日本語で話しかけてくるという経験を何度もしている。ただし、スペイン語圏やギリシャでは「チノ」と、中国人扱いをされることが多かったが、たいていは日本人とわかって話しかけてくることが多かった。あの昔、1970年代はもちろん、80年代でも、海外旅行をしているアジア人は日本人と決まっていたのだ。
かつてのそういう事情が、最近はかなり変化してきたと友人たちは言うのだ。
テレビ番組で、こういう例を見た。「世界の車窓から(テレビ朝日)」のスリランカ編。いつものように、鉄道の乗客にインタビューする。
「これからどこに行きますか?」という字幕がでた。通訳が何語を使ったのかは、わからない。その答えが、これだ。
「アンニョン・ハシムニカ」
番組スタッフがあわてているのがわかる。
「だって、みなさん韓国からでしょ?」
チャンネルを変えた途端のシーンだから、記憶に間違いがあるかもしれないが、大筋ではこういう会話だったと思う。スリランカまで、韓国ドラマファンが広まったようだ。
そういう例はあるにしろ、旅行者の体験数で言えば、日本人が韓国人だと思われるよりも、韓国人が日本語で話しかけられる機会の方がまだ多いだろうと思う。韓国人なのに、「コンニチワ」「アリガト」「トモダチ!」などと声をかけられるたびに、「オレは、日本人なんかじゃねえ!」と心底怒りに震えているのだろう。だからといって、カナダ人旅行者がアメリカ人に間違われないように、リュックにカナダ国旗を縫いつけていたように、韓国人が荷物に韓国国旗をつけても、世界の大方の人たちは、それがどこの国旗かはわからない。世界の人は日本の国旗も韓国の国旗も、残念ながら知らない。
アジア人旅行者数では、今や日本人よりも中国人の方が多く、バックパッカーでも韓国人が多くなった。東アジアの若者たちは、外見だけでは国籍はわからなくなってきた。