563話 台湾・餃の国紀行 24

 台湾雑話 その5


台北駅から西門町に歩いて行った時には気がつかなかったが、MRTの西門町駅を降りて地上に出て半円形の広場を見たときに、「ああ、ここの風景は覚えている!」と35年前を思い出した。この広場に面したビルに、大きく「新東陽」という看板がかかっていた。あのころ、台湾の街では、肉を加工したこの会社の製品が手軽な土産物として派手に広告をしていた。カネがある観光客はサンゴの装飾品を買ったのかもしれないが、義理で配らなければいけない人への土産物は、この会社の肉製品が多かったような記憶がある。突然思い出した「新東陽」という名だが、今はもう見かけない。消えてしまった商品なのか調べようとスーパーマーケットに行った。すると、細々とではあるが往年の姿を見せてはいたが、配るための土産物の地位は、パイナップル餡のケーキに譲ったらしいとわかった。規則では、台湾からの肉製品の持ち込みは禁止されている。新東陽の代表的な製品は、これ。
http://www.hty.com.tw/product_list.php?sn=1&ssn=2
台北など都市では、車椅子に乗った老人をよく見かける。車椅子を押しているのは、子供か嫁か、専門の介護士か、それともフィリピン人かインドネシア人のメイドかといった違いはあるだろうが、車椅子の老人を東京よりも多く見かける。日本と比べて、台湾には特に足の悪い老人が特に多いということはないだろうから、車椅子の人が多い理由はほかにあるだろう。MRTなど、エレベーターがついていて、車椅子でも移動可能という理由も多少はあるだろうが、私は職住接近にあると思う。東京では、東京駅のそばや銀座や渋谷駅のそばに住んでいる人はほとんどいないが、台湾では繁華街のビルの階上を住まいにしている人は多い。台北駅のすぐ裏に住んでいる人もいるが、東京では考えられないだろう。繁華街のマンションに住んでいれば、そこから近くの公園に行くことも、スーパーで買い物することもできる。日本に比べ、一戸建ての家が少なくマンション住まいが多いので、エレベーターを使えば、車椅子利用者には便利だし、台湾の歩道が広いというのも車椅子利用者に有利なことだ。
●テレビCMを見ていた。認知症の老人が出てきて、家族が面倒を見ているというシーンが続いている。認知症は、台湾では「失智症」と呼ぶことを知った。テレビは勉強になる。このCMはどうも認知症保険らしく、面倒をみる家族の負担、金銭的、精神的、肉体的な負担を、手助けします、と言っているような気がする。街には、尋ね人のポスターが貼ってあり、文面を読むと、いずれもふらりと家を出てしまった失智症の老人を探すものだ。
●体重90キロを超える男よりも、80キロを超える女に出会うことの方が多い。台北よりも、地方都市にその傾向が強い。
●高雄を散歩していたら、竹かごや樽や木の風呂桶を作っている職人の作業場兼販売所が並んでいる通りに出た。戦前からの営業だろう。35年前にこの通りを歩いた記憶はないが、台北以外のどこかで、畳屋を見た記憶がよみがえってきた。木造平屋の日本建築で、大きな看板に「畳」の文字があったような気がする。あれは台中だったか?
●資料によれば、2003年からコンビニやスーパーマーケットでは、無料でレジ袋を渡してはいけないという法律ができたそうだ。環境問題を考えて、ということらしい。だから、デパートやブランド店などを別にすれば、「袋をください」と言って、有料のレジ袋を買わない限り、品物をそのまま渡される。コンビニで買い物をするときは、客が何も言わないと、「袋は要りますか?」と聞かれることもある。ある日のこと、コンビニでペットボトルのお茶を買い、レジ前の列に並んだ。私の前に並んでいた若い女がレジの台に置いたのは、生理用ナプキン1袋。男の店員は、やはりというべきか、「要不要袋子?」(袋は要りますか)とたずねたらその娘、はっきりと「不要!」(いらない!)と言って、カネを支払い、商品をつかんで店を出て行った。バッグは持っていない。たかがレジ袋にカネを払いたくないのだ。
●レジ袋に対する対策はいいとして、自助餐の紙皿、紙茶碗、紙汁椀は、資源の問題としても、なんとかならないのか。食器を洗うと、洗剤が水を汚すというのか? ファーストフード店の紙コップだって、店内で飲むなら無駄だろう。省資源のスローガンの声は高いが、矛盾も多い。
●コンビニなどのレシートには番号が打ってある。これは宝くじでもあって、年6回抽選して、最高1000万元当たる。しかし、台湾で泊まったすべての宿では、レシートも領収書もいっさい貰ったことがない。脱税の手助けをしたか。