701 話 台湾・餃の国紀行 2015 第6話

春節外食事情 おでん

  台湾のおでんの話を書く前に、前回書いたおにぎりの話の追加情報を先に紹介したくなった。日本語を学ぶ台湾人大学生が書いた実にすばらしい卒業論文のことだ。「台湾における日本料理の受容についての研究」(王淳鋒)

http://web.ydu.edu.tw/~uchiyama/sendai/jyunpo.pdf
 「日本人にとっては、炊きたてのごはんで握った熱々のおにぎりだけでなく、アルミ箔やポリラップに包まれて冷たくなったおにぎりもまたおいしいのである。一方、台湾人は冷めた食事を好まないため、コンビニエンスストアではおにぎりを電子レンジで温めることが行なわれる。これは、日本では一般 に見られない光景だろう」
  この話で思い出したのは、沖縄でもおにぎりは温めるのが普通という習慣だ。
http://www.dee-okinawa.com/special/lawson/odd02.html
  このテーマをさらに調べると、沖縄以外に関西でもおにぎりを温めるという報告があり、「関東などでは見ない」というだけなのかもしれない。
http://oshiete.goo.ne.jp/qa/541270.html
 さて、おでんの話だ。台湾で、コンビニのおでんを食べた。実は、日本でも他人が作ったおでんを食べたことはほとんどない。自分では時々作るが、酒を飲まないせいかおでん屋には行かないし、コンビニのおでんを買うくらいなら、自分で作った方が安いと思い、買ったことがなかった。しかし、台湾との比較をする必要上、この文章を書くために、生まれて初めて日本でコンビニのおでんを食べたのだが、特にどうと言うこともなく、「まあ、そういう味だろうな」という味だった。
  台湾のおでんについて、紀文のホームページにはこういう解説がついている。
台湾では、おでんを「黒輪(オーレン)」と呼びます。おでんがオーレンになり、それに漢字を当てはめたというわけです。台湾のおでんにはだし汁はなく、ケチャップに砂糖や唐辛子を加えた「甜辣醤(テンラージャン)」がかけられています。鍋の様子はほとんど日本と同じで、「〜巻」や「〜丸」というようにバリエーションも豊富。
  「台湾のおでんにはだし汁はなく・・・」という部分が理解できない。汁がないなら、煮物のように皿に盛られて売っているというのか。こういう画像を示しても、「台湾のおでんにはだし汁はない」と言い張るのだろうか。おでん鍋にはお玉がついていて、だし汁を自由にすくえます。
http://gathery.recruit-lifestyle.co.jp/article/1141662983931765301
 台湾ではおでんを意味する語は2種あり、「黒輪」と書いて台湾語読みで「オーレン」と発音するもの。もうひとつは、コンビニなどで表示がある「関東煮」。関西ではこう書いて「かんとだき」と読む。おでんのことだ。台湾では「クワントンジュー」と読み、やはりおでんのことだ。台湾でなぜそう呼ばれるようになったのかは、おでん研究者である新井由己氏もわからないと、『とことんおでん紀行』(凱風社、1999)にある。この本は、日本はもちろん、韓国や台湾も取材している。台北では、宿泊先の日本人宿「おおしろ」の経営者に、台湾在住のライター片倉佳史氏を紹介してもらって取材しているというのが、興味深い。台湾関係者とはほとんど関わりはないので、このふたりにも面識はまったくないが、名は知っている。台湾を取材した1998年1月の時点で、すでに7−11はあり、おでんを出していることがわかる。
 台湾のおでん事情に深入りするときりがないので、私が食べたものだけの話にする。
元日の夜、ちょっと小腹がすいた10時ごろ、「そうだ、おでんの調査をしよう」と思いついて、宿近くの7−11に行った。寒風吹きすさぶ夜で、客はインドネシア人とバングラデシュ人らしき男が数人いた。店員にとっては最悪の夜だろうが、家庭のない者には救いの場だ。
 コンビニのおでんは、2種類の汁が用意されていて、透明な汁と、どす黒くトウガラシが入っている汁の2種ある。しかし、具のほとんどはすでに売れていて、補充されることなく、淋しく汁に浸かっていた。どす黒い汁の方はうまそうではないので、透明な汁の方にする。どちらにしろ、具の選択の自由はあまりなく、巾着とさつまあげと竹輪を選んだ。
 宿に戻って、試食した。汁は、甘い。だいぶ砂糖が入っているとわかる。さつまあげと竹輪は日本のものと同じようだが、巾着が意外だった。なかに入っていた物の正体が不明なのだ。色は黄色。カレーやカボチャ入りといってもおかしくない黄色だが、味も香りもそのどちらでもない。食感が一番似ているのは、はんぺんだ。ゆでる前のはんぺんの材料を油揚げに詰めたような感じだ。食感はもうひとつあり、ぷつぷつという感触は魚の卵、おそらく飛魚の卵だろうと思う。ネット情報を集めると、私の勘は当たっていて、この巾着は「飛魚卵福袋」というらしい。台湾らしいおでんネタといえば、ブタの血ともち米を混ぜた猪血糕や、ニガウリの芯を抜いてひき肉を詰めたものがあり、ネットなどの情報が多いが、私がたまたま食べた飛魚卵の巾着について言及したものを知らない。