719話 台湾・餃の国紀行 2015 第24話

 雑話いろいろ その1

 この台湾旅物語もいよいよ最終章に入り、私の旅行記ではおなじみの雑話集の番になった。1回分にはならない小ネタや、スケッチや、書いてから思い出したことなどを集めた落穂拾いが、これから5回分続く。
■桃園空港のイミグレーション。今回も客を長時間待たせるお役所仕事。列に並んでいる人の多くは、赤いパスポートを持っている。もちろん、日本のパスポートではなく、中国のものだとすでに知っている。私のすぐ前には、若い女3人。どこから台北に飛んできたのかわからないが、2月というのに3人とも半袖のTシャツ姿だ。そのひとりが大きくあくびをしつつ、両手を天に向けて伸びをした。豊富な腋毛が見えた。21世紀に入って、初めての目撃だ。中国は、まだそういう時代なんですね。悪いとか遅れていると言っているわけではないので、念のため。インターネットで確認すると、中国ではこのような女性が特別な存在ではないらしいとわかった。1970年代の台湾や香港では、芸能人やおしゃれな女の子でも、腋毛をそのままにしているのは普通のことだった。
■台湾では列車内での通話は禁止されていないが、スマホを広げて、指を動かしている人の方がはるかに多い。検索かメールか、LINEかゲームかはわからないが、通話をしている人は中高年に多いような気がする。ある日のこと、地下鉄内で大きな話し声が聞こえたので振り向くと、おばちゃんが通話を始めたところだった。上を向いた顔の上に、本を広げて昼寝をしているような姿で、話をしている。顔のほとんどがスマホのカバーが覆い隠している。私はデジタル機器に疎いのだが、通常見るスマホよりも大きい機種で、手帳のように表にカバーがかかっている。左開きのカバーをあけて、右手に持って右耳に当てると、カバーが顔を覆う。左手に持って左耳で聞けば、カバーは頭の後ろに来るのになあと、デジタル機器を持っていない旅行者が冷静に観察している。
■平渓線の車内は混雑していて、私のすぐ隣りに立っているのは、韓国人の母と高校生くらいの娘だった。なぜ韓国人とわかったかといえば、娘がハングルの文章を読み、送り、読みという行為を繰り返し、写真を眺めるという行動を猛烈な速さでやっていたからだ。母は、スマホで何種類かの鉄道時刻表をスマホで調べて、これからの旅の情報を集めているようだった。ふたりとも、スマホから目を離すことはなく、車窓に興味はなさそうだった。
■餃子のチェーン店「八方雲集」は、安くてうまいので、大いに気に入っていた。今回も足を運んだのだが、「あれっ?」という失望感を味わった。そうだ、そうだったんだ。この店は、客の注文に応じて餃子を焼くのではなく、一度に大量に焼いて、店内用と持ち帰り用の需要をさばいているのだ。だから、客が多いときは、常に焼きたてか、それに近い熱い餃子が出てくるのだ。前回は、そういう時刻の餃子を食べていたのだが、今回は閉店ちょっと前の、客がいない時刻に行ったために、「ぬるい」というくらいに冷めた餃子で、ふんにゃりとしていた。全般的に、台湾の焼き餃子は「フニャ」であって、日本の餃子のように「パリッ」というのは少数派だと思う。それが台湾人の好みなのだろう。
■台湾の日本料理、日本の食文化の影響といったものには大変興味がある。だから、「いつまでも店紹介と食べ歩きガイドばかり書いてないで、そろそろまとまった文章を書きなさいよ」と台湾を専門とするライターに言いたいのだが・・・。まあ、読者がそういう方面にしか興味がなくて、大多数が求める「るるぶ」程度の情報で充分すぎるほどなのだから、「牛肉麺と台湾社会」などといった話題は不要なのだろう。台湾に限ったことではないが、店と料理のガイド以外書けないというのが、食文化関連ライターの能力である。店の説明と料理の写真撮影だけなら、頭はいらない。資料を読む必要もない。料理の説明を書こうとしたら、語学力や食文化のお勉強が必要になってくる。台湾の場合は、読者(旅行者)が、読み応えのある本を求めていないのだから、素人同然のガイドで需要は賄えるというわけだ。