780話 インドシナ・思いつき散歩  第29回


ローヤルシティーで映画を その1


 ベトナムのショッピングセンターはどんなものだろうかと興味があって、メガ・モール・ローヤルシティーというところに行くことにした。地図を見ると、直線距離で6キロ以上はありそうだ。ホテルのスタッフに、「バスはある?」と聞いたら、「オペラ劇場の前から3番です」という。とりあえずオペラ劇場に行ったのだが、道路が何本も交差していて、どの道路のどのバス停に止まるのかなかなかわからない。バス停を探し歩くうちに、偶然にも目の前に3番のバスが来た。用心深くなっているから、そのまま乗ることはしない。
 「ローヤルシティーに行きますか?」と運転手に聞くと、
 「No!」
 おいおい、またかよ。本当にこのバスは行かないのか、それとも私のことばが理解されなかったのか理由はわからないが、ここでこのままバスを探すのはあまり楽しい時間の使い方ではない。いっそ歩いた方がいい。まあ、3時間もあれば着くだろう。長い道のりになりそうだから、なるべく道草を食わないようにしよう。おもしろそうな路地にはなるべく入り込まないようにして、大通りを進む。
 まずハノイ駅に出て、南下するルートを選んだ。ハノイは専門店街が多いという特徴があって、街の性格を際立だせているのだが、ハノイ駅前を南下するレズアン通りも変わった通りだ。線路を背にした側にはメガネ屋が何軒も並んでいて、その向かい側は軍用品専門店がならんでいる。古着・中古用具の店ではなく、どれも新品のようで、軍人がここで買うのだろうか。そうだ、調べたいことがあるのでちょうどいい。ちょっと道草。
 テレビのバラエティー番組で森や離島に行くという場合、19世紀の探検家の服装という設定で芸能人が登場することがある。サファリジャケットにヘルメットという姿で、植民地時代を連想させて不愉快になる。「世界! 不思議発見」の人形もそうだ。これ。
http://ishop.tbs.co.jp/img/tbs/navi/title/I_N_Image_20070404_175404.jpg
 このヘルメットをかぶっている人をハノイでしばしば見かけるので、どういうものか詳しく見たいと思ったのだ。軍装備品店にヘルメットが並べてあるのを見て、調べてみたくなった。外側は布で覆っているが、手に取ると、本体はプラスチックだとわかる。ヘルメットの内側には、頭頂が当たる部分にカゴ状のものがついていて、通気性を良くしている。いま、この文章を書きながら調べてみれば、このヘルメット、実は数多くの英語名があることがわかった。もっとも一般的なのは、Pith helmetという名だが、Topee、Sola topee、Safari helmetなどいくらでもあり、西洋の植民地で防暑用に使われてきたとわかった。ウィキペディアにも詳しい記述がある。日本語名の「ピス・ヘルメット」という表記は、携帯便器のようで嫌だなあ。
https://en.wikipedia.org/wiki/Pith_helmet
 これによれば、この種のヘルメットは、ベトナムではおもに北部で使われてきたもので、軍人だけでなく民間人も使ってきた。オートバイの運転にヘルメットが義務化されてから、この防暑用ヘルメットの利用が少なくなったという説明がついている。ハノイでこのヘルメットに注目したのは殊勲賞だったわけだ。
 ハノイ駅から離れると、新興商業&住宅地のようになり、道路は広く、コンクリートの低層ビルが両側に広がる。広い交差点には横断地下道があった。このあたり、散歩したくなる雰囲気なのだが、我慢ガマン。寄り道はしない。高層マンション群が見えてきた。メガ・モールというからショッピングセンターだろうと思っていて、確かにショッピングセンターが建っているのだが、その背後に高層マンションが何棟も建っている。その風景は、テレビで見た中国の成金マンション群のようだった。今のベトナムには、こういう場所もある。
http://vietnam-navi.info/article/vincom-mega-mall-royal-city
 いかにも成金が喜びそうな「凱旋門」の地下がショッピングセンターだが、その「凱旋門」の前を通り過ぎると、工事中の高架鉄道が見える。きのうのテレビで、高架鉄道の駅のニュースがあり、しかし高架鉄道の工事など見たことがないので、さてどこのことだろうと思っていたら、ここか。もっぱら旧市街の路地を歩いているので、新たな鉄道や地下鉄工事のことは知らなかった。
 数年すれば、ハノイにも高架鉄道や地下鉄ができるらしい。それはたしかに便利なことだが、街の景観という点では決して美しくなるとは言い難い。そういう意味では、2015年の私の旅は、「美しいハノイ」の最後の時に間に合ったとも言えそうだ。