ちょっとでも物事を考える人は、昨今のテレビ番組の、「日本万歳!」、「日本人万歳!」、「日本の頭脳・技術万歳!」の我田引水ぶりは大問題だなあと気がつくだろう。「日本はすばらしい」という説がおかしいというのではない。「日本の技術はすばらしいと言ってはいけない」と主張しているのでもない。「日本人がやればすべてうまくいく」、「日本人がやることは何でもすばらしい」、「ニッポン人、失敗しないので」という「日本人完全無欠」信仰が問題だと指摘しているのだ。
日本、日本人、日本企業万歳論者は、国立競技場問題や築地市場移転問題をどう考えるのだろう。シャープやサンヨーや三菱自動車問題をどう考えているのだろう。日本にも数多くの問題があると指摘すると、「反日だ」、「在日だろ」と嘲笑うのがネトウヨの常識らしい。彼らは、物事を調べないし考えない。自分に都合のいいようにしか理解しない。
そんなことを考えていた昨今、「水と運動選手」について調べていたら、こういう質問が見つかった。「教えて!goo」に寄せられた質問だ。
http://oshiete.goo.ne.jp/qa/8692340.html?from=recommend
わかりにくい文章だから要約すると、こういうことだ。科学技術が発達した日本では、「水を飲むな」などというわけはないというのだ。賢明な日本人が、そんなことを言うはずがないという意見だ。
「昭和時代には何割ぐらいの支持を得ていた風習なのか、一部の、甲子園目指してる野球部とか大学柔道部の話を大げさに言ってるだけ、要はデマではないですか?マスゴミ報道は反日の嘘ばかりと聞いています。今回のも非論理的な国だと日本を貶めるためのデタラメだと思うんですがどうでしょうか?」
40代以上の人なら、どこの学校であれ、「水を飲むな」と言われていた事実を体験しているのだが、日本は完全無欠の科学の国だと信じてしまった若者には、そういう過去は「反日マスコミが作り出したデマ」だと考えないと理解できないらしい。
この若者には、水俣病もイタイイタイ病も、すべて「反日マスコミ」のデマだと考えているのだろう。いや、そもそもそういう公害病を知らないか。「公害の日本」を知らないから、のんきに中国の大気汚染を嘲笑っているのだ。この手の人は、日本は完全無欠の国だと、本当に信じているのだろうか。まあ、読売でさえ新聞は読まないし、テレビのニュースも見ないだろし、「日本最高」で凝り固まっているのだろう。ただし、この質問、「貶める」などという語を使ってしまったことを考えると、アホを装って注目を浴びようとする演技かもしれないが。
日本人は優秀なのに、もし物事がうまくいかないとすれば、それは外国の妨害があるからだと考える人たちがいる。今もABCD包囲網が存在しているというような考え方だ。
スポーツの世界が分かりやすい。伊東四朗がラジオで今も年に数回は口にするのは、「日本人選手が勝つと、外国は日本に不利なルールを勝手に決める」という話題で、スキージャンプの板の長さの話をする。身長に合わせてスキー板の長さが決まった。板が短いと浮力が少ないので、身長が低い日本人には不利だ。身長が高い西洋の選手に有利なルール変更だ、という説だ。今もまだ、西欧列強に日本はいじめられているという主張だ。
企業間でも国家間でも、何かを取り決めるときは交渉をする。そして、当然ながら、双方とも自分に都合のいい内容で交渉を成立させたいと努力する。だから、スポーツルールの変更が議題に取り上げられたら、それぞれの国や団体が、自分に有利に変更したいと交渉するのは当たり前なのだ。誰が相手の都合のいいようにルールを変更しようなどと考えるものか。会議の場できちんと発言せず、出席者を説得できない交渉力を棚に上げて、決まった結果にブツブツ文句を言っているにすぎない。
たとえば、サッカーの「中東の笛」というのが本当に存在するというなら、その証拠を集めて、堂々と「出るところに出れ」ばいい。国際社会に訴えればいい。それでどういう結果になるかは、また別の話だ。しかし、抗議も交渉もせず、その辺の居酒屋で酒を飲みながら、憂さ晴らしをすることしかしない。会社などの組織でも、同じようなことがありそうだな。会議の時には無言だったのに、後になってから「オレ、まずいと思ったんだよなあ」などと言い出すヤツ、いるでしょ。日本は、それだ。
だから、スキー板事件についていえば、日本に不利だと思えるルール変更なら、徹底的に論議すればいい。結果的に日本の主張が通らなかった場合は、交渉過程を公表すればいいのだが、それだけの努力をしたとは思えない。
この問題のふたつめは、1998~99年のルール変更の結果がどうなったのかという調査だ。この議論は私もよく覚えていて、競技前にマスコミは「日本たたきだ」と報じていたのだが、その後の競技会で長身選手がそろって優勝したという事実はない。長身なら有利ということはなかったはずだ。
私の想像といくつかの事実でここまで話を進めてきたが、それだけでは実証性に欠けるので本格的に調べてみれば、マーティ・キーナートのコラムが見つかった。スキー板の長さに関して、日本側は交渉さえしなかったことがわかった。マスコミが躍っただけらしい。こういうのは「ニッポン万歳マスコミ」というのだろうか。
http://www.ismac.co.jp/archives/kiji/2002/msn020123.html