883話 イベリア紀行 2016・秋 第8回


 空中遊覧と地下探訪


 初めて空路でリスボンに飛んだ。マドリッドを出た時は雲の上だったのだが、「間もなくリスボンに着陸します」というアナウンスが流れたころ、窓の下を見ると、リスボンの南から進入するのだとわかった。かつて半日遊んだ団地が見える。リオ・デジャネイロキリスト像の縮小コピーのようなクリスト・レイが見える。4月25日橋も見える。すべて見覚えがある。テージョ川を越えて、飛行機が飛ぶ。高度をどんどん下げていくと、住宅のすぐ上を飛んでいることがわかる。高い建物がないので、香港のかつての啓徳空港のように、アパートのベランダをかすめるように飛ぶというほどではないが、戸建て住宅の庭が覗けるくらい高度を下げて、空港に進入した。
 この空港には1度来たことがある。リスボンで、「どこかに行くバス遊び」をやったとき、どこに行くかわからないバスに乗ったら、空港経由だった。だから当時の空港正面は見たのだが、これほど住宅に接近して飛ぶとは思わなかった。滑走路のすぐそばが、住宅地だ。今、グーグルマップで再確認したが、やはり進入ルートの際まで住宅が広がっている。住民たちにとっては迷惑な話だが、そういう飛行体験ができるということだけでも、マドリッドリスボンの飛行機は遊覧飛行機代と考えても安い。このルートは、ぜひとも晴天の昼間がいい。
 14年前、地下鉄はまだ空港まで伸びていなかったが、いまは地下鉄で中心地に行ける。目的の駅まで2度乗り換えをしないといけない。路線が伸びたので、多少の変更はあるが、見慣れた路線図だから、乗り換え駅はすぐにわかる。最初の乗り換えはアラメダ駅だ。そのあたりの駅はすでに知っているのだが、駅に着くと突然奇妙な風景が見えた。百数十年前の鉄の時代の建造物のような風景だ。巨大な鉄の管をビスでとめたような柱が何本も立ち、あたりは暗く、映画のセットのようだ。駅の表示を見ると、OLAIASとある。オリエンテ線のこの駅は以前に通っているのだが、気がつかなかった。地下鉄の駅が美術館化しているようだ。元々そういう駅だったのか、駅ができてから手が加わったのかわからないが、駅がおもしろそうだ。そうは思いながら、駅ひとつひとつに降りて、ホームやいくつもの通路を点検していく探検をする時間がなかったのが、なんとも残念だ。
 リスボンでやりたいことを次々にやっているうちに、地下鉄駅遊びの時間がなくなった。駅に注目して、その結果をネットに情報を載せた人がいるので、紹介しておこう。1枚目に出てくる写真がオライアス駅だ。カメラがいいからか、かなり明るく映っているが、実際は新聞を読む気になれないほど暗い。地下鉄に乗っていて、駅に着いたのでふと車窓から外を見たら、こういう光景が広がっていたら、「時空を超えた」と感じそうな、SF的風景だ。
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 以前やった地下鉄遊びは、終点まで行って、駅周辺を歩きまわるというもので、「リスボンの際(きわ)を見る」散歩だった。だから、それぞれの駅舎には注目していなかった。あのころは、まだどこも普通の駅だったのだろうか。
 地下鉄駅をじっくり見たい。またリスボンに行く理由ができた。