964話 大阪散歩 2017年春 第3回

 ドヤ街から安宿 2017年


 東京の山谷も大阪の釜ヶ崎も、労働者が減り、高齢化が進み、宿に空き部屋が目立つようになり、外国人バックパッカー相手のゲストハウスに変身しているというニュースをテレビで見た。
 大阪市西成区のドヤ街が、バンコクの外国人旅行者用の安宿街カオサンのように変身しているのだろうかという興味もあって、新今宮到着後すぐに歩いてみた。西成区というと範囲が広すぎるので、便宜上ドヤ街をここでは旧称である釜ヶ崎と表記することにする。
 交通の便を考えると、釜ヶ崎はとんでもなく便利な場所にあることがわかる。
関西空港から南海本線新今宮駅まで乗り換えなしで約50分。特急を使えば、もっと早い。地下鉄の御堂筋線堺筋線の動物園前駅も最寄りの駅で、御堂筋線を使えば、梅田まで15分、そのまま5分乗れば新大阪だ。堺筋線に乗れば、淡路で乗り換えて京都に行ける。天王寺駅まで徒歩10分。難波までは南海本線でふた駅だから、歩いても20分くらいで行ける。もし釜ヶ崎に住んでいれば、通学や通勤に大変便利なのだが、釜ヶ崎は普通の住宅地ではない。ドヤ街だ。交通の便だけを考えれば、高級マンション街や高層ビルが林立する大商業地区になってもおかしくない地域なのだが、そうはならない。
 釜ヶ崎を歩けば、英語の看板を出しているゲストハウスもあるが、ほんの数軒だけだ。そういう宿の周辺を歩いても。バックパッカーにはほとんど出会わない。外国人旅行者は多い。中国語人(中国、台湾、香港など)と韓国人とタイ人が、私が耳にした3大言語人だ。カートをカラカラと引いて移動している個人旅行者たちだ。
 さて、ここの宿代だ。インターネットで調べてみて、1泊1800円の部屋というのが、大阪の安宿の最安値クラスだろうと想像していた。私が実際に泊まったのは、入口に「1500(和室)〜2000円(洋室)」という看板を掲げているホテルだった。「部屋はありますか?」と聞いたら、「今、ご用意できるのは2300円の部屋です」というので、1泊してみることにした。3畳ほどの洋室で、ベッドとエアコンとテレビと冷蔵庫がある。窓はあるが、テーブルとイスはないので、書斎に使えないのが不満だが、まあ、しょうがない。トイレやシャワーは共同というのはマドリッドの安宿と同じだが、あちらは40ユーロ、約4800円だから、大阪は半額以下だ。さすが日本というべきか、テレビの映りはスペインと違って、大阪の圧倒的勝利だった。
 翌朝、「2000円の部屋に替えてくれ」というと、「一番安い洋室は2300円の部屋です」という。「表の看板は、シングルは1500円から2000円になっているじゃない」と言えば、「あれは旧料金です」という。その旧料金の看板を書き直すこともなく、毎朝表に出す。客寄せのインチキ商法だ。「これが大阪の商売!」と言えるかどうかわからないが、「やりやがったな」と思った。「から料金のインチキ」というのはよくある。「6500円から」という看板を掲げていて、「よし、泊まろう」とホテルに入ると、「今は9800円の部屋しか空いていません」などというたぐいの商法だ。
 このあたりの宿は多分、9時チェックアウト、15時チェックインというシステムになっているようで、宿を変えようと9時にチェックアウトすると、15時まで荷物を持ち歩かないといけないのが面倒で、結局、このインチキホテルに最後まで泊まることになった。
 散歩をすれば、「1200円から」といった料金表示を見かけるが、実際はいくらかわからない。想像でいえば、和室の最低価格は1500円程度、ベッドがある洋室は2000円前後が最低ラインだろうと想像している。
 


「この空き地は、なんだか変だ。どう利用するのだろうか」といぶかしく思い、新今宮駅ホームから写真を撮った。新今宮駅裏で、住所は西成区ではなく浪速区だが、生活保護を受けて泊まれるアパートの広告があるのは釜ヶ崎の風景と同じだ。
 

帰宅後、インターネットで新今宮周辺の情報を探っていたら、撮影したあの場所の利用法が、私の滞在中に決まったと報じられていた。あの地区を知っている人なら、「まさか!」と言って、誰しもガゼネタだと思って信じないだろう。だって、これですよ! この場所は、我が安宿とは線路を挟んでちょうど反対側にあたる。
http://www.excite.co.jp/News/bit/E1489046811883.html
http://arcanaslayerland.com/2017/03/09/hoshino-resort-osaka/