1048話 イタリアの散歩者 第4話

 イタリアはヨーロッパか

 前回書いた事とは別の意味で、イタリアはヨーロッパなのかと思うシーンがいくらでもあった。
 ナポリ駅前は工事中で、広場には出られない。駅を出てそのまま前には進めないから、駅を出たら右か左どちらかに向かうことになる。宿探しには右側がいいと思い歩きだしたら、そこはラゴスかアクラかヤウンデか。路上に露店が広がっている。安っぽいTシャツ、携帯電話用品、日用雑貨、靴などを売る男たちも、路上で何をするでもなくたむろしている男たちも、しゃがみこんでいる男たちも、すべてアフリカ人だ。荷物を手に歩道を行きかうのは世界各国からやって来た人たちだが、路上の人たちをざっと眺めると、90パーセントはアフリカ人である。
 パレルモで、アフリカの若者と1時間ほど話をした。鉄道駅でバスの情報を教えてもらったのが出会いで、そのバス停で再会し、そのときはもうひとり増えていて、ふたりで話していることばが何語か気になってたずねたら、「ヨルバ語」だというので、ナイジェリア出身だとわかった。どうりで、英語がうまいわけだ。どうやら、彼らは留学生らしく、当然イタリア語の読み書きは学び、フランス語とドイツ語も勉強させられたと言っていた。
 「ローマなら、ことばに不自由はないけど、ここシチリアじゃ、何を言っているのかわからないことも多くてね。標準イタリア語なら、ここの人たちよりもぼくたちの方がちゃんとしゃべれると思うよ」
 これから夜行バスでローマに戻るのだという。パレルモには、アフリカ人はそれほど多くはなく、それがイタリアの標準だと思っていたから、ナポリで驚いたのだ。
ローマのテルミニ駅を左に出ると、そこはインドから中近東の街である。インド料理にケバブ、それにイタリア料理も合わせて出す食堂が並んでいる。小さな商店は「ミニ・マーケット」などと言った看板を掲げている雑貨屋。スマホなどデジタル機器の店や、インターネットや国際電話をかけられる店も、たいていはインド人の経営だ。ここでも、露店はほとんどアフリカ人がやっている。なぜか理由がわからないのだが、マクドナルドの入口当たりはいつもアフリカ人がたむろしている。店内の案内係のアフリカ人が、ジェスチャーから察すると、「そこに立たないように」と注意している。テルミニ近くのマクドナルドでは、客の半分以上は西洋人ではない。ナポリマクドナルドは、客のほとんどが非西洋人だった。
 ローマで、ビルの半地下がすべてインド人の布店というのを見かけた。サリーなどの伝統的な布にアクセサリーの店だ。中国人の店が集まっている地区もあり、中華食堂の近くに床屋があって、「三刀」を思い出した。中国人が外国に出ると、料理人、床屋、洋服屋を始める。いずれも刃物を使うので「三刀」という。イタリアの場合、中国人が洋服屋テーラー)を始めるのは無理なのだが、安飯屋も多くない。スペインでは、中国料理のファーストフード店が多くあったのに、イタリアではまったく見ない。例え食生活に保守的なイタリア人が中国料理を食べなくても、安くて量があればスペインのように旅行者は列を成すと思うのだが、法律上の問題があるのだろうか。
 アフリカ人が多いのに、アフリカ料理の看板を掲げているのは、ローマで1店見ただけだ。中国人もインド人も商売の経験やコネがあるが、その点アフリカ人は商売には弱い。なかなか露店商から成り上がれない。
 テルミニの北に行くトラム(路面電車)はお屋敷町を通るせいかイタリア人客が多いのだが、テルミニから南下するトラムに乗ると、しだいに中国人やアフリカ人が多くなる。車内の通話は自由だから、客は大声で会話を続けている。中国語でしゃべるおばちゃんの声を、アフリカの言葉がかき消す。東アジア人の顔つきだが、まったく聞いたことのないことばで何かを懸命にしゃべっている若者は、雲南からラオスあたり出身の少数民族か。
 アフリカ人の若者が乗ってきた。スマホのスピーカーで音楽を流している。その昔、ニューヨークにいたころに、アフリカ系住民が、バカでかいラジカセを肩に担ぎ、大音響で音楽を流しながら街を歩いていたのを思い出した。あの時代、バスや地下鉄には、「No Tape Playing」(テープ再生禁止)の文字があった。
 現在のヨーロッパは、非西洋人が多いというのはわかっているが、植民地支配の歴史がほとんどないイタリアに、これほど多くのアフリカ人が住んでいるとは思っていなかった。ポルトガルやスペインと比べると、イタリアのアフリカ人は、明らかに多い。これが現実のヨーロッパであり、現在のイタリアなのだ。
 ヨーロッパのどこの国でも、雑誌の旅行記事やテレビの旅番組やCMは、白人だけの国だと偽情報を流している。旅行記事以外に、現実にはない白人だけの世界を見せているのが、ハウステンボスやディズニーランドだろう。夢の国には白人しか住んでいないのだ。そういえば、ウォルト・ディズニーは民族差別主義者として有名だった。

 
 ローマ・テルミニ駅西口を出ると、こういう看板が並び、インド・中東・イタリア料理を出す安飯屋が並んでいる。イタリアを特集する女性雑誌では、こういう風景はけっして載せない。