1062話 イタリアの散歩者 第18話

 ベネチアへ その2


 今回の旅では、イタリア最初の街はシチリアパレルモだった。その後、シチリア島東部のカターニャやノートやシラクーザを旅しているうちに、街にうんざりしていた。カターニャに行こうと思った理由は、今も時々火を噴くエトナ山を見たいと思ったのだが、山頂付近に雲がかかっていて、よく見えなかった。天気が悪かったので、山の近くまで行くのはやめた。
 街を歩けば、バロックだの、ロココだの、ゴテゴテと飾りがついた建物が視界に入り、もううんざりだった。シチリアが気に入ればひと月でも居ようと思ったのだが、もういいやという気分が日に日に強くなった。

 雲がかかったエトナ山。バスから撮影。

 突然、アルベロベッロに行こうかと思った。石を乗せた屋根の円筒形の家が並ぶ街だ。大都市のすぐ近くにあるわけではないので、「どのツアーでも行く大観光地」というほど有名ではないが、有名観光地のひとつだということは確かだ。写真を見ると、キリスト教の重みがなさそうなので、他の街に行くよりは楽しいかもしれないと思った。
 アルベロベッロにどう行けばいいのか。シチリアカターニャの宿で聞くと、「ここからバーリまでバスがありますよ」ということなので、翌日出発の切符を買った。シチリアから半島にはフェリー+鉄道で行きたいと思っていたのだが、鉄道ではバーリに行きにくいので、バスにした。長いドライブだ。カターニャ発9時、バーリ着16時。料金はメモしなかった。驚くほど安くもなく、驚くほど高くもなかったということだろう。

 シチリア島からイタリア半島へ。両岸が見えるほど、その距離は近い。

 バーリから日帰り旅行で、アルベロベッロに行った。石積みの円柱の家に三角屋根が載っている建造物をトゥルーリ(trulloの複数形がtrulli)という。街の一区画だけに、そういう家が残っている。その多くは今も住宅だが、一部は土産物屋や飲食店やホテルになっている。小路を行ったり来たりして、小一時間の散歩、コーヒーをゆっくり飲んで合計2時間の散歩というくらいの街だ。
大人数の団体客は中国人のひと組だけで、家族や夫婦や友人たちの、数人の旅行者が多かったが、団体でゾロゾロというのではないから、「あー、いやだ」と思う光景はなかった。交通があまり便利な場所ではないので、レンタカーか自分の車で、家族や夫婦でやって来た人が多そうだ。

 駅から、ごく普通の小さな町並を歩いて行くと、小路の向こうにあの屋根の家が見えてくる。自宅をギャラリーにして稼ぐ人もいれば、土産物屋にする人もいるが、多くは一般住宅だ。だから、迷惑がかからないように、静かに歩く。