1063話 イタリアの散歩者 第19話

 ベネチアへ その3

 アルベロベッロで、ロココでもバロックでもない建築を楽しんだ。自動車が少ないのもいい。こうなれば、もうひとつの観光地へも行ってやれ。アルベロベッロに行った翌日、今度はマテーラへの日帰り旅行に出かけたのだが、大変な朝だった。宿を出たら、豪雨だった。宿は駅の近くで、傘を持っているから、足元が濡れるにしても大したことはないと思ったのだが、問題は洪水だった。まるでバンコクだ。歩道まで水没するほどの洪水ではないが、車道はほぼ水没しているので、道路を渡れない。いや、渡れないわけじゃないが、足首まで水につけて歩かないと駅まで行けないのだ。「ええい、ままよ」と、じゃぼじゃぼと水没した横断歩道を歩いて駅に行き、コーヒーとパイの朝ごはんを食べているうちに、雨はすっかり止んだ。濡れた靴下と靴は、すいた車内で乾かした。
 マテーラは「洞窟都市」だと宣伝しているので、トルコのカッパドキアのような街かと思ったのだが、行ってみれば洞窟住居はごく一部で、全体は石の家だった。ここも普通の住宅だから、ゴテゴテの飾りがないのがいい。
 国立バジリーカタ州中世・近代美術館に行った。入場料3ユーロ。「これがイタリアだな」と思ったのは、この入場券は考古学博物館のものなのだ。だから、入場券に印刷してある展示品は、ここの博物館のものではない。「いずれ、専用の入場券を印刷しなきゃいけないとは思っているんですが・・・」と、職員。もう何年も前にできた博物館なんだけどね。
 美術に興味のない私の足が止まったのは、不思議な世界を描いた絵だ。中東・北アフリカのような風景画なのだが、なんか変なのだ。時間が交錯している。よく見ると、写真に絵を描いたことがわかる。職員の説明では、「マテーラにイスラム教徒が住み着いた過去はないので、画家の想像です」といい、イラン人画家の作品だということだった。
 不注意にも、その場で画家の名前を確認しなかったのだが、インターネットで調べてすぐにわかった。Gian Paolo Tomasi。このイタリア語名ではいくらでも検索できるが、ジャン・パオロ・トマシという日本語表記では情報は見つからない。1959年ミラノ生まれのイタリア人画家だ。

 マテーラの街は、洞窟都市という宣伝文句とはかなり違う。


 以下、トマシの作品。現代の風景写真に絵を加えた作品。光線の具合が悪いので、写真の写りが悪いのはしかたがない。