1118話 ダウンジャケット寒中旅行記 第2話

 国会議事堂の周辺で 
 ラバトは政治の街であり、首都だから大使館が集まっている街だということはわかっていたが、具体的にどんな街なのか想像がつかなかったので、「行ってみようか」と思ったのである。
 「つまらない街かもしれない」という予感は、はずれた。長くいたいと思う街ではないが、数日遊ぶにはいい街だ。観光客などほとんどいないから、ざわついた感じがない。
 ラバトの地図を見ていて、「ホントかね」と思った。駅の2軒隣の、日本なら少々カネのかかった図書館といった感じの建物が、国会議事堂だった。大通りに面して建っている、さほど大きくない建物で、「下がれ、下がれ!!」と国民を威嚇するような建物ではない。
 我が安宿が国会議事堂のそばにあるせいで、その前を何度も通った。ある日、国会議事堂前で、何かを訴えている女性たちの姿があった。訴えたい内容はアラビア語で書いてあるから、内容を理解できない。政府に対する抗議行動なのか、それとも体制翼賛的な運動なのか、まったくわからない。

 これは何かの抗議運動だろうか。近くにいた数人の男は、見守っているのか、監視しているのかわからない。この夜、彼女たちはすぐ左側の路上で野宿した。

 たぶん、その翌朝だったと思う。ラバット・ビル駅(Gare de Rabat Ville)と国会の間のある建物の歩道で彼女たちが寝ていた。その歩道は、シンガポールの英語ではFive Foot Way、中国語では五脚基、台湾では亭子脚などといい、歩道部分の上にその前の建物の2階以上がせり出している建築様式で、雨や強い日差しを防いでいる。そういう歩道にシートと布団を敷き、十数人が寝ている。寒い日の半野宿なので、ふとんの量も多い。監視役なのか、椅子に座っている人もいるが、そこにいるのはすべて女性だ。奇異な光景なので、写真に撮りたかったが、ここでカメラを取り出してはいけないと自制した。寝具を用意した人がいて、大勢の女性が歩道で寝ていても、警察が動かない理由はなんだろう。
 タンジェに向かう日、列車が出るまでまだ1時間ほどあるので近所を散歩した。駅の近所は、つまり国会議事堂だ。駅の脇の道を入り、議事堂の裏手の公園近くを歩いていたら、突然うしろから女の声が聞こえた。詰問するような口調だった。
 「ここで何を探しているんですか?」
 質問の意図がわからないが、「列車が出るまでの時間つぶしですが、それが何か?」と逆に質問すると、「ちょっと気になったので・・・」と言いつつ、議事堂の裏口から中に入っていった。あたりに警官の姿はない。あれは、親切の言葉か、それとも公安か。


 ロッコの言語事情は複雑で、アラビア語といっても、エジプトなどのアラビア語とはだいぶ違う。植民地化された歴史からフランス語も主要言語ではあるが、世界の趨勢で英語を使う人も多い。この看板にある日本人には見慣れない文字は、ベルベル諸語のティフィナグ文字だ。


 こういうカフェでちょっと休憩していると、モロッコに来たと感じる。


 トラムが完成して、郊外の新市街と市の中心部を結ぶ。

 新市街の「団地」建設現場。


 旧市街にはこういう街並みもあるが、さすが首都、整然としている。