1323話 スケッチ バルト三国+ポーランド 42回

 危機一髪

 

 リーガのわが宿はリーガ駅の正面にあり、宿から駅方面に行くには、横断歩道を2か所渡って行くルートと、横断歩道とは反対方向にちょっと歩き地下道で駅方向に行くルートがある。

 ある日の夕方、駅から地下道を使って宿に戻る途中、階段を上がっていると、ショルダーバッグに違和感があった。右肩にかけたバッグに誰かが触っているような感触があり、すぐさま右を見ると、私に体を寄せていた男が急に離れ、「NO!  NO!」と叫んだ。バッグのジッパーが5センチくらいあいていた。バッグには、当然貴重品は入れていない。現金もクレジットカードもパスポートも入れていない。スマホはもともと持っていない。貴重品はコンパクトカメラだけだ。

 中東風の顔つきをした若い男3人は、駅方向に逃げ去った。

 たまたま私にぶつかったのなら、「NO! NO!」と叫ぶのはおかしいし、慌てて元来た方向に走って逃げるのもおかしい。あの瞬間の状況をドローンの映像風に想像すると、こうなる。

 私の両脇にふたりの男がピタリとついて歩く。第3の男が私の後ろから手を伸ばし、ショルダーバッグに手を伸ばす。こうすると、私の前方からも後方からも、犯罪の現場が見えない。バッグから何か盗ると、すぐさま別人に品物を渡し、その男は逃げる。盗った男は疑われても、盗品を持っていない。

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 左がリーガ駅とショッピングセンター。右側の建物に我が宿がある。

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 駅のショッピングセンターの塔の最上階はレストランになっているらしい。その右の茶色い建物は、シネマコンプレックスなどがある商業ビル。駅前大通りを渡るには横断歩道か地下道を使う。

 

 ショルダーバッグが狙われたのは、これで3度目だ。

 最初は、リスボンだった。街の中心部からちょっと東にあるファド博物館に向かって歩いているときに、ショルダーバックに違和感があった。ジッパーをあけるようなジリジリという感触が伝わってきた。慌てて振り向くと、私の体に接するほど近くに中年のアフリカ人夫婦がいて、”Oh sorry. This way is to city center?”と男がわざとらしく言った。中心部から外側に歩いているんだよ。わかってるだろ。朝の新宿駅ならともかく、リスボンの路上に人が密集しているわけはない。そういう歩道で、私にピタリとくっついて歩いてきたことが怪しい。にらみつけたら、中心部の方に戻っていった。ジッパーが少しあいていたが、実害なし。

 2度目は、マドリッド。王宮前のオリエント広場を歩いていたら、やはりショルダーバッグに違和感があった。振り向くと若い女がふたり(十代かもしれない)が、私の背後に迫っていた。半径50メートル以内に私とその女二人以外いないという空間で、背後に迫るというのは異常で、私が振り返ってにらんだとたん、背を向けて速足で来た道を戻っていった。

 ショルダーバッグを肩にかけた外国人が、ひとりでぶらぶら歩いている。カネは持ってなさそうだが、警戒光線は発していない。スリは何を狙っているのだろう。今時、高額紙幣をバッグに入れているのは犯罪者だけだろう。少額の現金、クレジットカード、スマホ・・・、バッグに入っていそうな貴重品と言えばそのくらいか? 男なら、現金やカードはポケットの財布に入っていることが多いから、バッグの貴重品はスマホくらいだろうか・・・。