1157話 桜3月大阪散歩2018 第11回

 ある1日、大正区の散歩から その8


 食事を終えて、ビルの外に出た。地下鉄で帰る気はない。地下街を歩いて帰る気もしない。梅田からミナミに向かうなら、曽根崎の飲食店街に入り込まないと、無味無臭の高層ビル街を抜けることになる。それはつまらないのだが、もう夜だから、これからふらふらと路地散策を始めるのは遅すぎる。キタ(梅田界隈をこう呼ぶ)とミナミ(難波や道頓堀など)の移動は、環状線や地下鉄やバスはもちろん、さまざまなルートで歩いているから、目新しいコースは思い浮かばないが、それでも歩いて帰りたい。
 梅田からの帰路は、歩いてただ南下するだけにした。梅田から新今宮あたりまで、直線距離では7キロくらいだろうか。キタからどういうルートで南下するかはいつも違うのだが、ただ南へ歩いていればいつかは環状線の南側に着く。いつかは新今宮に着くということだ。梅田から難波あたりまでが2時間、そして新今宮まであと30分、合計2時間半。最短ルートを急いで歩けば2時間かからないが、多少なりとも右往左往しながら歩くので、2時間半から3時間はかかる。それが今夜最後の散歩だ。昼間の散歩なら寄り道が多くなるから、5〜6時間かそれ以上かけることもあるが、今夜はおとなしく帰る。

 大江橋から堂島川を眺める。このあたりは、昼よりも夜がいい。

 日本銀行大阪支店前を過ぎて、

 淀屋橋からフェスティバルホール方向を見る。高層ビルは好きではないが、夜景ならまあいい。
 この夜、道頓堀付近を歩いていると、歩道を歩く私の横を異様に長いリムジンが追い抜いていき、すこし前で停まった。黒く長い車なので最初は霊柩車かと思ったが、やけに長い。テレビのバラエティー番組でしか見たことがないリムジンだ。カメラが見えないから、テレビの撮影じゃなさそうだ。日本の芸能人の車には思えないから、外国から来た超大物か、組関係の大物か、はたしてどういう人物が車から出てくるのか気になって、わざとゆっくり歩いた。右手は、バッグのなかのカメラをつかんだ。
運転手が後部に回りドアを開けると、服装と化粧がけばけばしい若い女が、書類を挟んだクリップボードを左手に持って降りてきた。秘書か、なにかの案内人か。そのあと車から出てきたのは、同じようにけばけばしい姿の女たちで、ホステスだろうか。出てくると予想している大物の姿がない。出迎えか? リムジンのすぐ脇で“大物”の登場を30秒ほど待っていたが、このまま車のそばで立っていると裏稼業の方々に囲まれるかもしれないと心配になってきて、車から離れた。大阪を甘く見てはいけないことくらい、私もわかっている。

 ディオール心斎橋と大丸心斎橋店北館が見えてきた。こういう大阪は、「オオサカ」らしくないから、バラエティー番組には登場しない。好きな通りではないが、大阪の顔のひとつだから、じっくり眺めた。

 通天閣が見えてくれば、わが宿まであと30分。
 新今宮のコンビニでコーヒーを買って宿に戻ったのは、11時過ぎだった。これでこの日の16時間の散歩が終わった。日によっては8時ころに宿に戻ってくることはあるが、散歩はいつもこういう感じだ。毎日の散歩を今回のように書いていたら、1日分の文章がどんどん長くなってしまう。大正区の商店街のことや喫茶店のことなど書いていない話はまだまだあるから、時間の経過をそのまま書いていく旅日記は限りなく長くなってしまう。プロの書き手にとっては、長くすることは造作もないことだが、簡潔に短く書くことはなかなかに難しい。だから、だらだらと長くならないように、私はテーマ別に書いているのである。
以上、小学生の作文でした。