1332話 スケッチ バルト三国+ポーランド 51回

 ホットドッグと「どうぞ」と歯医者

 

 昨日も歯医者に行った。旅から帰ってすぐに通い始め、昨日で一応の区切りがついた。長い治療だった。

 そもそもは、この写真のホットドッグだ。

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 このホットドッグが高くついた。

 

 リーガに着いてすぐのことだった。近所のコンビニに朝ご飯を食べに行った。昨日と同じシナモンロールじゃなあとパンを選んでいたら、ソーセージを焼いているのが見えた。回転する熱い鉄棒にソーセージをのせて、ゆっくり焼いている。カウンターで若者が何か言うと、おばちゃんが左手に持ったパンに香ばしく焼けたソーセージを挟み、若者に手渡した。ホットドッグのパンは柔らかいから好きではないが、ここのパンはバゲット風で、ソーセージもうまそうだ。私も若者と同じように、ソーセージを指差した。

 ソーセージが焼きあがる間に、コーヒーとホットドッグの料金を払い、セルフサービスでコーヒーを買い、カウンターに戻った。ちょうどソーセージが焼き上がり、おばちゃんはパンにはさんだソーセージを私に差し出しながら言った。

 「どうぞ」

 おお、なんで日本語をしゃべるんだ! と驚いたが、ああ、そうだった。これがラトビアの「どうぞ」だったなと思い出した。『ラトビアの霧』(中津文彦講談社、1988)に、「どうぞ」を意味するラトビア語が、日本人には「ドウゾ」と聞こえてしまうという話が出てくる。Ludzuと言う語で、綴りをみれば「どうぞ」には遠いようなのだが、「ルードズ」という発音が、日本人が「どうぞ」という場面で使われるので、日本人の耳には「どうぞ」のように聞こえてしまう空耳なのだ。

 コンビニのイートインコーナーで、硬い皮に包まれたソーセージをはさんだ硬めのパンにかぶりついたら、前歯に痛みを感じた。パンはかたそうだと覚悟をしていたが、ソーセージの皮もとんでもなくかたい。

 前歯は差し歯で、マレーシアでも抜けたことがあったのだが、そのとき痛みはまったくなかった。差してある歯が抜けたので、地元の歯医者に行って差し直してもらい、それで終わった。しかし、今回は痛い。しかも歯がグラグラする。そのせいで、以後サンドイッチであれピザであれケバブであれ、前歯でかみ切らないといけない料理はほとんど食べられなくなった。固い食べ物でも、ナイフで切って奥歯でかむから、問題ない。要するに、安い食い物が食いにくくなったのだ。

 帰国して、すぐに歯医者に行った。今までは差してある歯が抜けたのだが、今回は歯茎に入っている「差されていた方の歯」が、バゲットとソーセージの皮の硬さに耐えられず、割れたのだとわかった。そういうわけで、数十年前に親知らずを抜いて以来久しぶりに歯を抜くことになった。生まれて初めて人工の歯が入ることになったのである。このブログでバルト三国の話を書く直前から秋までかかって、歯の治療をしてきて、きのうほぼ、治療を終えた。リーガの、たかだが数百円の朝飯のせいで、数万円の義歯治療をすることになった。もう、スペアリブにかみつくことはできなくなったが、そんなのは悔しくはない。ベトナムバゲットサンドも、無理かなあ。豚足は食いたいなあ。

 歯は治った。これでまた旅に出かけられる。ムシャムシャ食えるぞ。

 というわけで、次回から、食文化の話をちょっとやる。

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 リーガのどこででも見かけるNARVESEN。コンビニのように見えるが、飲食物があるだけだ。ここはノルウェーのチェーン店で、ラトビアに249店舗、リトアニアに260店舗あるという。

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 もう日本から撤退したサークルKがあった。ここもコンビニではなく、テイクアウト用飲食店。観光用三輪自転車タクシーもいっしょに撮影。

 

 おまけ。

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 リーガを歩いていて、時計塔の時計に”KOBE”の文字を見つけて、近づいた。

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 なるほど。神戸市がリーガ市と友好都市(1974年)になっている事実が骨格となっている小説『ラトビアの霧』を読んでいたので、この時計の意味はすぐにわかった。