食べる話 その6 立ち食い
フランス料理店を立ち食いにして、回転率を上げることで、高価なフランス料理を安く提供するというコンセプトで生まれた俺のフレンチを、中国でやりたいと考えた中国人がいたが、開店した当日から立ち食いが拒否され、椅子を用意することになった。
立ち食いそばを台湾でやりたいと台湾人が考え、日本企業と提携したが、台湾でも立ち食いが拒否され、椅子席となった。この話題は、だいぶ前にテレビ東京の経済番組で放送したものだが、俺のフレンチは日本でも椅子式が普通になり、立ち食いソバも、店舗面積に余裕があるとこでは椅子席に変わっている。新規開店する場合、椅子席が当たり前になっている。だから、「立ち食いソバ」という呼称は、今は現実をあまり映していない。江戸時代にすしやソバの屋台から始まった日本の立ち食いは、21世紀に入ってどんどん減少している。欧米によくある立ち飲みの文化は、日本ではそれほど広まらなかったと思うものの、酒屋で飲む角打ち(かくうち)は微増くらいか。
リトアニアの首都ビリニュスに、ソビエト時代から続く唯一のレストラン「スルティニエイ」に行ってみた。最初に行ったときは、平日の昼間なのにドアが閉まったままだった。後日、昼過ぎに再挑戦してみたら、やっていた。壁ぎわにテーブルが4台あるが、中央は立ち食いようの背の高いテーブルが並んでいる。立ち飲みの店では、つまみくらいはあっても食事をするわけではない。今の欧米では、ピザやケバブの店はいくらでもあるが、立ったままナイフとフォークで食事をする店ではない。しかし、ここでは立っていても座っていても、同じ料理を同じように食べている。
私はここでも「リトアニア料理を」と言って、「はい」とツェッペリナイを出された。客のほとんどもこの料理を食べている。さすがに国民食だ。高そうなスーツを着た40代後半の女性が店に入って来て、立ち食いのテーブルで、やはりツェッペリナイをナイフとフォークで食べ始めた。滞在時間5分で食べ終わった。ぷにゅぷにゅの料理だから、食べやすい。
私が店を出ると。その女性客がすぐ前を歩いていて、そばの高層ビルに入って行った。忙しく働くビジネスパーソンの遅めの昼食だったようだ。
私はツェペリナイとパンとコンソメスープを注文(セルフサービスだが)。スープがガラスのカップに入っているというのも、西洋料理の常識からはややはずれているのか。カップに入れれば、スプーンは要らないのだが・・・。
客のほとんどはツェペリナイを食べていた。すいている時間に食事をしたので、立ち席を利用している人はいない店内を撮影した。そのご、ゆっくり食事をしていると、スーツ姿の女性が入って来て、さっそうと立ち席で食事を始めた。
これが、ソビエト時代の食堂の風景だ。